天性のグルーヴ感でフレンチ・ロックを歌い上げ、青年の野心と熱情を丁寧に紡ぎ出す――。宝塚歌劇団星組トップスター・礼 真琴（れいまこと）の高度なスキルと芝居心が存分に活かされたミュージカル、『Le Rouge et le Noir ～赤と黒～』が、3月21日に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。
本作は文豪スタンダールの長編小説を基に、2016年にフランスで誕生した「ロックオペラ 赤と黒－Le Rouge et le Noir, l'Opéra Rock－」の日本初演。『1789』『ロックオペラ モーツァルト』などを手掛けたフランスのプロデューサー、アルベール・コーエンによる作品だ。
宝塚歌劇では柴田侑宏脚本による名作『赤と黒』が有名だが、それとは異なるロック・ミュージカルで、潤色・演出は谷貴矢が担当。星組男役スター・暁 千星（あかつきちせい）が演じるストーリーテラーのジェロニモが、芝居小屋で「普遍の愛に彩られた物語を今蘇らせよう！」と、200年前へ観客を案内する冒頭から、ダークファンタジーのような雰囲気が漂い引き込まれる。
フランス小都市で貧しい製材業の息子として生まれたジュリアン・ソレル（礼）は、聡明さと強い自尊心を備えた美青年。立身出世の野望を秘め、家庭教師を務めるレナール家で貞淑な妻、ルイーズ・ド・レナール（有沙瞳／ありさひとみ）の心を征服するがごとく愛を告げるが、それが真実の愛となり二人を固く結びつける。だがジュリアンとルイーズの関係を密告する手紙をきっかけに、ジュリアンは勤め先を追い出されパリへ。そこで有能な仕事ぶりからラ・モール侯爵（英真なおき／えまなおき）の秘書となるが、ラ・モール侯爵の一人娘マチルド（詩ちづる／うたちづる）と恋の駆け引きをするうち愛し合うようになり…。
礼は2019年、梅田芸術劇場メインホールで開幕した『ロックオペラ モーツァルト』で星組トップスターのプレお披露目をおこない、2021年にはフランス発の人気作『ロミオとジュリエット』に主演。毎回圧巻のパフォーマンスを見せてきたが、本作でもフレンチ・ミュージカルとの親和性を強く感じさせた。
独特のリズムを刻むフレンチ・ロックを、ときに高らかにときにねっとりとヘビーに歌い上げる礼の表現力は秀逸。特に本作では冒頭からどこか憂いを帯びた表情なのが、突如まぶしいライトを浴びてナンバーを歌い上げるときの豹変が強烈。照明などの演出もあいまって、新しい世界が生まれ出るような“ビッグバン”という印象。さらに愛するルイーズやマチルドへのまっすぐな愛情や葛藤にもだえる姿、決して恋愛に長けた青年ではない純粋な核がどんどんあらわになっていく様に、愛おしさと共感が芽生えていく。
そんなジュリアンの物語を、観客に軽妙に語り掛けながら進めていくジェロニモは、劇中劇ではパリで活躍する歌手でジュリアンの友人としても存在する。昨年星組へ組替えし、ますます強い輝きを放つ暁が礼と歌うナンバーは、二人の声の相性も良くて心地いい。
そのほかの星組選抜メンバーや、専科の英真なおき、紫門（しもん）ゆりやたちも19曲のナンバーを歌い上げ、ソウルフルな掛け合いが、人生を一気に駆け抜けるジュリアンの運命を彩る。また、轟悠主演作でもヒロインを務めた有沙瞳・小桜（こざくら）ほのかという実力ある娘役がしっかりと作品をサポート。有沙はルイーズの美しさと芯の強い一面を、小桜はヴァルノ夫人役で「ギラギラな」ブルジョワの存在を印象づけた。また、2019年初舞台の詩ちづるは、アイドルのような可憐な衣裳で長いナンバーも華やかに歌い上げる。
赤い薔薇はルイーズ、黒い薔薇はマチルドへの愛を示しているなど、作品全体でタイトルの「赤と黒」のコントラストが映える演出。ルージュ（希沙薫）、ノワール（碧海さりお）というジェロニモの眷属（けんぞく）の存在も、各シーンで効いている。
エピローグでは、赤と黒の薔薇がデザインされた衣裳に身を包む礼真琴が、有沙と詩とダンスで絡み、どこか清々しい表情を見せる。今年6月からは『1789 －バスティーユの恋人たち－』の上演が決まっており、再びフレンチ・ミュージカルに挑戦する星組。この勢いはますます加速しそうだ。
なお『Le Rouge et le Noir ～赤と黒～』は同劇場で3月29日まで上演後、4月4日から10日まで日本青年館ホールで上演される。3月26日16時半公演は、全国映画館でのライブビューイング、ライブ配信も実施。詳細は公式サイトへ。
宝塚歌劇星組シアター・ドラマシティ公演
『Le Rouge et le Noir ～赤と黒～』
公式サイト：https://www.umegei.com/schedule/1093/
