ペットブームの中で、多頭飼育や遺棄、飼い主が亡くなったなど、さまざまな理由で保護される猫は多い。保護猫を迎えた「里親」の女性に、当時の心境や猫との暮らしについて聞いた。
雲南市三刀屋町三刀屋の自営業・星野かおりさん(54)は島根県内のボランティア団体から3匹の猫を引き取り、暮らしている。
もともと猫が好きで、子どもの時から飼っていた。2021年、約30年間暮らした松江市から地元の三刀屋町に戻り、新たに猫を迎えようとインターネットで保護猫の情報を探していると、出雲市小山町のNPO法人・アニマルレスキュードリームロード(原ゆかり理事長、約20人)の投稿が目に留まった。
▽一目見て、優しい性格と分かった
アニマルレスキュードリームロードは保護猫、犬の譲渡活動を行い、保護している猫や犬の情報を会員制交流サイト(SNS)などで発信している。星野さんがサイトを見ると、白い毛に薄い茶色や灰色のまだらな模様が入った猫の写真が掲載されていた。写真の猫が気になり、実際に見てみようとドリームロードに足を運んだ。
猫はケージの中にいて、人間におびえているように見えた。星野さんは「(劣悪な環境で飼育されるなど)つらい思いをしてきたのかなと思ったが一目見て、この子は優しい性格だと分かった」と当時の印象を話した。
猫はオスで、雲南保健所から相談を受け、ドリームロードで保護されていた。育てられなくなった飼い主が母猫とともに手放したといい、近くには似た模様の母猫がいた。スタッフによると母猫は新たな子猫を妊娠していて、星野さんが見に来た猫は前回の出産で生まれたのだという。
▽「離れ離れはさみしい」と母猫も
保護猫の中でも子猫は人気で、引き取り手が見つかりやすい。これから生まれる子猫たちは引き取ってもらえても、母猫は引き取られず保護猫のまま一生を終えるかもしれない―。星野さんは見に来た猫だけでなく、出産が終わったら母猫も引き取ろうと決めた。「親子なのだし(離れ離れになると)さみしいだろう」との気持ちもあった。
スタッフとの相談を経て、まずは子どもの猫を引き取り「みちおさん」と名付けた。虐待を受けるなど怖い思いをしてきたのか、相変わらず人間におびえ、家に連れて帰ってからも「シャーッ」という声を上げていた。
3日ほど経過すると警戒心が解けたのか、威嚇する様子を見せなくなった。今では見知らぬ人にも人懐っこく甘え、星野さんが帰宅する足音が聞こえると部屋の入口まで出迎えてくれるほどになったという。
やがて出産を終えた母猫も引き取り「かごめさん」と名付けて家族に迎えた。人懐っこい性格のみちおさんと比べ、自由気ままに動き、あまり人間にすり寄ってこないクールな性格。でも星野さんが体調を崩したり落ち込んだりしていると、そっと寄り添ってくれるという。星野さんは「ツンデレでかわいい」と笑顔で話した。
かごめさんが生んだ5匹の子猫たちも無事、島根県内各地の里親に引き取られた。現在は無料通信アプリ・LINE(ライン)で「かごめさんファミリー」というグループを作成し、星野さんやほかの里親たちで互いの猫の近況を報告し合っている。
▽大変な思いをした子 幸せにしたい
最後に引き取ったのは毛足の長い三毛猫。かごめさん、みちおさん親子を引き取った翌年の2022年、ドリームロードのスタッフから星野さんに「おぞかわいい(恐ろしくかわいい)子がいるよ」と連絡が来た。会いに行くと、まるでぬいぐるみのようにふわふわで愛らしく、スタッフの言葉通り「おぞかわいい」猫だった。
話を聞くと、猫は県内の里親に引き取られたものの「トイレの場所を覚えない」と、トライアル期間(里親と猫との相性を確認するために、期限を設けてともに暮らす期間)で引き取りを断念され、ドリームロードに戻ってきたという。もともと、出雲市内の多頭飼育崩壊によりドリームロードが引き取り世話をしていた。
多頭飼育崩壊の現場で発見された時、猫は数十匹が1部屋に押し込められた状態だった。星野さんは「(トイレを覚えられないのは)この子のせいではない。大変な思いをしたこの子を幸せにしたい」と2022年5月、猫を引き取った。
星野さんは猫に「ひばりさん」と名付けて家族として迎え根気強くトイレの場所を教えた。結果、時々ほかの場所で用を足してしまうものの、基本的にはきちんとトイレに行くようになった。
星野さんによると、ひばりさんは「自由気ままで人見知りをしない、社交的な性格」とのこと。知らない猫や人にも物おじせず歩み寄り、甘えてくれるという。もともと星野さんの家にいた2匹とも仲良く暮らしている。
ちなみに「みちおさん」「かごめさん」「ひばりさん」と、猫たちに渋めの名前を付けた理由は「昭和レトロな雰囲気が好きだから」(星野さん)とのこと。
星野さんは「引き取ってもらえた猫たちは幸せ者だねと言われるが、幸せをもらっているのは自分」と話した。かつては仕事で疲れを感じたり悩んだりすることもあったが、3匹と暮らし始めてから「この子たちのために頑張らなくては」「落ち込んでいるひまはない」と自分を奮い立たせられるようになり、毎日が楽しくなったという。
星野さんは「世の中からつらい思いをする子がいなくなってほしい。まずはこの子たちに病気などをさせず、長生きさせたい」と、3匹を見つめながら話した。
▽譲渡して良かった
猫を譲渡したアニマルレスキュードリームロードの原ゆかり理事長(53)は、星野さんについて「お話をして本当に動物が好きな方なのだなと感じた。この人なら大丈夫だと安心して譲渡できた」と話した。
ドリームロードは昨年、170匹近くを譲渡し、現在は約90匹の猫を保護している。保護している猫のほとんどは捨て猫や、多頭飼育崩壊などによる遺棄で引き取った猫たち。保護・譲渡活動はボランティアで行っているため「何匹でも制限なく保護できるというわけではない」(原さん)。資金や飼育スペースに限りがある中で、不幸な犬や猫をゼロにしたいとの思いを胸に活動を続けている。
犬や猫を引き取った里親から、犬や猫と撮った写真や「かわいい」「うちの宝物です」といったメッセージが届くと「譲渡して良かった」「活動を続けていて良かった」と思えるという。原さんは「引き取られた子が幸せに暮らしているのが一番うれしい」と、しみじみと話した。
ビニール袋に入れられて草むらに捨てられていた、発泡スチロールの箱に閉じ込められ放置されていたなど、悲惨な状況で発見される保護猫は少なくない。原さんは「不幸な動物がゼロになるよう多くの人に現実を知ってもらい、愛護の輪が広がるといいなと思う」と願いを込めた。
星野さんやドリームロードにいる猫たちは皆、のびのびと歩き回り、初対面の記者にもおびえず、すり寄ってきてくれた。きれいな毛並みや穏やかな表情から、たっぷりと愛情を受けて生きていることが伝わってきた。保護される猫が減り、少しでも多くの猫が幸せに暮らせたらと願いながら、軟らかく温かい体をなでさせてもらった。