糸で人形を操る神技に観客は感嘆 「子ども向けのイメージを払拭したい」人形劇団座長の熱い思い

平藤 清刀 平藤 清刀

糸あやつりの人形劇といえば子供向けのイメージがあるけれど、公演を見に来るお客さんの7割弱は大人だとか。大人でも楽しめる演目もあるという「糸あやつり人形劇団みのむし」の座長・飯室康一さんに、人形劇の魅力や難しさについて伺った。

扉を開けると出迎えてくれる無数の人形たち

京都の観光地から外れた、住宅街の一角にある「糸あやつり人形劇団みのむし」。

「ここは私の実家なんですよ」と、座長の飯室さんから説明を受ける。自宅の敷地に、人形劇専用の芝居小屋がある。ここで月に1度、定期公演を行っているという。

「40人くらい入りますけど、コロナの感染対策で今は20人ていどに制限しています」

扉を開けると、無数の糸あやつり人形が天井から吊るされている。すべて飯室さん自ら制作した人形たちだ。

「私は木を削って形をつくって、それに合わせてウチの奥さんが衣装をつくるんです」

天井に吊るされているのは一部で、奥にしまってある人形をすべて合わせると1000体近くあるという。

飯室さんが人形劇に携わり始めたのは、高校を卒業してから東京にある竹田人形座に参加したことだった。1970年の大阪万博では6カ月の会期中ずっと、「住友童話館」で人形劇を演じていたという。以来50数年、糸あやつり人形一筋に生きてきた。

竹田人形座に3年間在籍した後フリーになり、子供向けのテレビ番組で人形を操ったこともある。そして1975年に「糸あやつり人形劇団みのむし」を旗揚げし、主として保育所、幼稚園、学校、お寺、図書館、小ホールなど、子供たちが集まる場での出張公演を行うほか、テレビにも出演した。

1人で2体の人形を同時に操りながら…

「糸あやつり人形劇団みのむし」は、飯室さんと奥さんの2人と若い団員1人のこじんまりした人形劇団だ。基本的には飯室さんが人形を操って、奥さんは舞台の下で音響と照明を担当する。

演目は民話や童話からヒントを得るほか、飯室さんオリジナルの台本も演じる。その台本に合わせて人形をつくったり、先に人形をつくってから台本を考えたりするという。

演目にもよるが、1公演に登場する人形は12~13体。それが場面ごとに入れ代わり立ち代わり登場する。飯室さん1人で2体の人形を操り、しかもそれぞれの役によって声や喋り方を変え、並行して次の出番を控えている人形の準備もする。

「出演順に並べて、後ろの壁に掛けておくんですよ。人形を操ってセリフの掛け合いをやりながら、自分の顔は前を向いたまま、手だけ後ろへ伸ばして手探りで次の人形を間違えずに取るわけです」

約1カ月かけて行う稽古では、その手順を確認し、間違いなく且つ効率よく人形を取る練習が大半を占めるそうだ。

「それでもね、頭が混乱するときはあります。いよいよワケが分からなくなったら、奥さんにSOSを出す合図も決めてあるんです(笑)。頭が混乱するアクシデントはしょっちゅうありますけど、それをお客さんに悟られずに最後まで演じます」

50数年のキャリアが為せるワザとはいえ、素人から見ればまるで神ワザだ。

観客の7割弱は大人が占める

「糸あやつり人形劇団みのむし」では月に1度の定期公演を合わせて、年間約80公演をこなしている。観客の層は老若男女さまざまだが、1人で見に来る大人も少なくないという。

「子供に付き添いの親御さんも来られますけど、20代から30代くらいでわざわざ東京から1人で来られる方もいます。そういう方も合わせると、観客の7割弱くらいが大人の方です」

コロナ禍の前には、どこで劇団のことを知ったのか、定期公演の観客のうち3割くらいが外国人だったこともあるそうだ。

最後に、今後の展望を尋ねた。

「人形劇は子供が楽しむものというイメージがありますね。それを払拭して、大人の方が見ても大変面白いということを、広めていきたいです。見てもらえば面白さを分かってもらえると思うんですけど、足を向けてもらうまでが難しいですね」

また、地方公演の数を、もっと増やしたいとも。リピーターは多いが、できれば初めて見に来るお客さんや、外国人のお客さんにも来てほしいという。

「糸あやつり人形劇団みのむし」では動画を公開していないそうなので、飯室さんの神ワザ的な人形使いを見るには公演に足を運ぶしかない。

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▽糸あやつり人形劇団みのむし

http://mino3064.com/

▽あとりえミノムシ
https://at.mino3064.com/

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