「ワシは帰るぞ」オオワシの後ろ姿が、まるで人間→実は野生には帰れず20年、その理由とは?

太田 浩子 太田 浩子

 雪の上で羽を広げながら去っていくオオワシの後ろ姿が、Twitterに投稿されて話題になりました。

「ものすごい人間味…😄」
「ワシは帰るぞ。」
「タキシード姿の体格の良い、指揮者の後ろ姿。『後は任せたぜ‼️😎』カッコ良い〜〜惚れる💕💕💕」
「なんというイカした後ろ姿。リーゼントに長い襟足、短ランを着た番長の様に見えるのは私だけでしょうか」
「小さい子がわーい!って走ってく後ろ姿みたいだなって。かわいいです」

リプ欄には、肉食の大型鳥に親しみを感じるとコメントが寄せられて、1.3万を超える「いいね」がついています。

 実はこちらのオオワシは、交通事故で右の翼の先がありません。20年前に治療により一命を取り留めたものの野生に帰ることはできず、釧路湿原野生生物保護センターで猛禽類医学研究所が飼育管理しています。

 環境省によると、オオワシは絶滅危惧II類。北海道東部を中心に約1400〜1700羽が各地に分散して越冬します。オオワシの生息を脅かす要因は、銃猟されたエゾシカを鉛弾とともに食べることで起こる「鉛中毒」や、感電事故、交通事故、列車への衝突事故などが挙げられ、人間の生活が大きく関わっていることがわかります。

 実際に同研究所には事故にあった希少鳥類、特に猛禽類が次々と運ばれてきます。その数は、年間50羽以上、多い時には100羽にもなると言います。運ばれてきたときにはすでに冷たくなっていることも多いそうですが、治療できれば自然に帰されるか、後遺症があれば終生飼育されます。

 希少猛禽類の救護活動は環境省からの委託事業として、釧路湿原野生生物保護センターでおこなっています。現在は35羽を環境省から預かり、独自予算で終生飼育しています。今回のオオワシの写真は、健康状態の見回り中に撮ったとのこと。

 撮影した猛禽類医学研究所の代表で獣医師の齊藤慶輔さんにお話を聞きました

──「貫禄を保ちながらも、どこか愛嬌がある終生飼育の猛禽たち」とツイートされていましたが、愛嬌があると感じられることはよくあるのですか?

 愛嬌を感じることは少ないですが、本来は自然界で生活するはずの猛禽類が、限られた飼育環境の中でも過度に人馴れすることなく、自分らしく生きる姿は美しいと感じます。

──こちらのオオワシは、どのように過ごしているのでしょう?

 終生飼育動物として飼育されているなかで、輸血のドナーや事故防止器具の開発、環境教育などで活躍しています。

──交通事故など、人が関わる事故によって命を落とす猛禽類が多いのですね。

 人間が作り出した環境を、野生動物たちはうまく自分達の生活に取り入れ、今風に生きています。車や列車にはねられた動物を餌として利用したり、人が作り出した電柱を止まり木として利用したり、廃棄物(狩猟残滓など)を餌としたり。

 人が動物の生息域である森などに入っていって開発を進めているだけではなく、今や野生動物たちの方から人間の生活環境に近づいてきているのです。そして副作用的に、交通事故や感電事故、中毒(農薬や鉛)に遭っているのです。

──保護や治療で、人が与えている影響がわかると書かれていました。

 私たちは治療や検視を行う課程で、なぜ、どのように傷ついたり死亡したのかの手がかりをつかみ、必要に応じて現場検証などもしながら、傷つく原因となっている関係者等と話し合いを持ちながら事故の元栓を閉める活動を行っています。この活動を私たちは「環境治療」と呼んでいます。傷ついた動物を治すだけではなく、傷ついたり病んでしまった自然環境を健全なものに治すという意味合いを込めて、私が名付けました。

──そして、「猛禽類とのより良い共生社会」を目指されています。

 人間は文明や技術により、自分たちがより快適で豊かな生活ができる世界を作り上げてきました。野生動物たちはこの地球上で共に生きてきた“お隣さん”です。人が豊かな生活を送る見返りとして、計らずとも彼らとの軋轢が生じ、苦しめています。その現実をしっかり見据えて、彼らの生活をリスペクトし、人間ファーストでも動物ファーストでもなく、共に迷惑をかけずに自分達らしく生きて行ける世界を目指すべきだと思います。

──そのためには、どうしたらよいのでしょうか?

 俯瞰的に自分達を見直し、お隣さんに迷惑をかけないかな?と立ち止まって考え、それぞれができる環境保全に取り組んでもらいたいです。車をゆっくり走らせる、野生動物に不用意に餌を与えない、さらには野生動物の現状や保全の取り組みを紹介している私たちの発信する情報を広く知らしめる、やれることはたくさんあります。

 ◇ ◇

 猛禽類医学研究所は、事故などで傷ついた猛禽類の治療、後遺症などで野生に戻れない個体の終生飼育のほか、「より良い共生社会」を目指すさまざまな活動をおこなっています。医療機器の更新や後遺症などにより野生に帰れない個体の継続飼育、野生復帰個体の追跡調査などにかかる費用について、現在クラウドファンディングで支援を募っています。

■猛禽類医学研究所 齊藤慶輔さんのSNS
・Twitter https://twitter.com/raptor_biomed
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・Instagram https://www.instagram.com/keisuke.saito.irbj/
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■猛禽類医学研究所 http://www.irbj.net/

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