前足が片方ないだけの「普通の猫」 獣医師の言葉が響いて「うちの子」に→今では同居の猫に毛繕いしてあげる優しい猫に

古川 諭香 古川 諭香

五体満足ではない人や動物に同情的な視線を向けたり、特別視してしまったりする人は少なくない。だが、諸岡正行さんは足を1本なくした愛猫ヤスケくんを、「普通の猫」だと思っている。

「ヤスケは俺が保護した時から、前足が片方ないだけの普通の猫。元気でヤンチャで少しビビりな、3本足の猫です」

獣医師の言葉が響いて3本足の猫を“うちの子”にした

譲渡会に行ったことがきっかけで団体に所属し、TNRや野良猫の里親探しを行うようになったという諸岡さん。

「何も知らない頃は、猫ってかわいいなあぐらいの気持ちでしたが、外猫のTNRに携わるようになってからは不幸な猫や飼い主がいない猫は増やさないという思いが自分の中で大きくなっていきました」

ヤスケくんと出会ったのは、2022年3月下旬のこと。

自宅の庭で片付けをしていた時、ふと向かいの家の駐車場に目をやると、1匹のハチワレ猫が。その猫は右の前足を1本失っており、3本足だった。

その猫が気になった諸岡さんはひとまずTNRをしようと思い、捕獲機を設置した。

捕獲は、無事成功。足のキズは、すでに完治していた。諸岡さんは去勢手術を行おうと、動物病院へ。実はこの時、諸岡さんは猫を自宅で保護するか、リリースするか悩み、周囲の人に相談していたそう。

だが、手術後に獣医師から言われた言葉が胸に響き、自宅に迎えようと決意した。

「足のキズは3〜4カ月前のもので、先天的な欠損や事故によるものではないと言われました。虐待かと聞いたら、先生は『多分…』と。人の手で足が無くなったこの子の面倒は、俺がみるんだと思ったんです」

名前は、ヤスケに決定。成猫になるまで外の世界で生き、人から傷つけられた可能性が高いヤスケくんは警戒心が強く、家に迎えた当初は激しく威嚇。撫でようとして、ガブリと噛まれたこともあった。

だが、諸岡さんはそんなヤスケくんに対し、撫でる時に話しかけたり、ことあるごとに名前を呼んだりし、徐々に距離を縮めていったそう。

すると、ヤスケくんの警戒心は徐々に薄れていき、お迎えから1カ月半ほど経つ頃にはケージから出て、自由に部屋を歩き回れるようになった。

家や人に慣れるにつれ、ヤスケくんは性格だけでなく、顔つきも変化。無防備な姿を見せてくれるようになり、見た目も内面も、穏やかな猫になっていった。

一緒に暮らす中で、諸岡さんはヤスケくんに対して特別な配慮は行っていない。ごく普通の猫に接するようにヤスケくんのお世話をし、愛を伝えている。

「ヤスケを保護すると決めた時、獣医さんに『3本足なので、何か気をつけることはありますか?』と質問したら、『特に何も気をつけることはない。普通で良いよ』と言われたので、何もしていません」

過度な配慮をされない環境は居心地がいいのか、ヤスケくんは元気に走り回り、伸び伸びとした生活を送っている。

「イタズラもしますよ。引き戸を開けるのを見た時は、びっくりしました。片方の前足がないのに、バランスをとって左の前足で開ける。すごいって思いました」

なお、ヤスケくんは父性が強いよう。現在、同じ部屋で暮らしている2匹の保護猫にグルーミングをしてあげる姿を諸岡さんは何度も目撃し、心が温かくなった。

人を再び信じ、心を開いてくれたヤスケくん。かけがえのない3本の足で、これからも笑顔溢れるニャン生を歩んでいってほしい。

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