仕事、家事、育児。コスパにタイパと、何かと効率化が重視される現代社会で私たちは生きています。そんな毎日を過ごしていると、時間に囚われてストレスが溜まったり、心にゆとりが無くなったりしてしまいがちです。
「いつも何かに急かされている気がして、ストレスを感じる」「思いきり休みたいけど、のんびりすることに罪悪感がある」……と、急ぎがちな世の中で、知らず知らずのうちに心をすり減らしてしまうことも。
そんな人にピッタリの本が刊行されました。『人生をもっと”快適”にする急がない練習「がんばりすぎ」をやめる47のヒント』名取芳彦・著(だいわ文庫)という本です。
著者は密蔵院の住職で、写仏講座やご詠歌指導、話法など幅広いアプローチから布教活動を行っており、日常生活で誰もが抱える悩みやモヤモヤを仏教の智恵で乗り切るエッセイが人気です。本書では、そんな先生が自分のこころの守りかたを紹介しています。
常に心穏やかに過ごすための「お釈迦さまからの教え」とは
冒頭でも触れたストレスや知らず知らずのうちに感じる自己圧力は、現代人の多くが持っているものだと思いますが、同時に、いつどんな場面でもマイペースに穏やかに過ごせるようになりたいと考えるのもまた、多くの人に共通する願いだと思います。
著者は、こういった場面で「レシピ」となるのが仏教だとしています。その上で本書は、その多くのコラムを通して私たちが常に持っている焦りやプレッシャーを解放してくれます。1〜3章までにある複数のコラムのタイトルの一部をご紹介します。
■「できそうなことをする」より、「やりたことを一生懸命やる」
■「迷惑をかけ合う」って案外、大事です
■どうしても合わない人は、せいぜい十人――他人に“深入りしない”技術
■つい、自分に「ダメ出し」をしたくなった時が、大チャンス
■「こうすべき」を手放すと、世界が広がるよ
■つい、他人に「ダメ出し」をしたくなったら、こう考える
■どうしても理解できない“あの人”が教えてくれること
■「失敗」という種をまくから「成長」という実が育つ
■偶然とは「準備していた人」にだけ訪れるもの
■「あなたは、よくここまで生きてきた!」思わず自分を抱きしめたくなるお話
「急ぐ」ことは、本当に幸せなことだろうか
これらタイトルに沿って、わかりやすく優しい言葉によるコラムで「自分のこころの守り方」を多く教えてくれているわけですが、同時に人間個々にとっての真理や本当の幸せについてもしっかり説いている点も見逃せません。
■急いでも、急がなくても、大した問題ではないことがたくさんある
■人生はまるごと、寄り道、道草、回り道みたいなものである
■人は死ぬまで、ちゃんと生きている
■退屈な時間というのは、何でもできる時間という意味
こういった言葉の数々は、ある面では今の社会通念や規範とはまるで異なる考え方かもしれません。しかし、自分自身の心の片隅にこういった言葉を置いておくと、不思議と気持ちに余裕ができ、どんなことが起きても常に冷静にいられ、そして他者にもより優しく接することができるかもしれない、と思いました。
本書には、今、何かに疲れていたり、悩んでいる人が読めば必ず助けになる言葉やコツが多くありますが、日頃から「俺は大丈夫」「私は強い」と思っている人にもぜひ本書を手にとってほしい一冊です。新鮮に感じる言葉・考え方に出会えることウケアイです。
「情熱があるほうが偉い、という勘違い」
本書出版に至ったきっかけは、担当編集者のワーケーションにありました。コロナ禍でリモートワークが推奨されていた時期、心と身体に疲れを感じていた担当編集者は思い切って遠くの南国に行って、このチャンスを生かして療養しようと考えましたが、このことがかえって自分自身を苦しめることにもなったと言います。
「ワーケーションをしてみると『謎の焦燥感』や『罪悪感』がいつも頭の片隅にありました。『〇〇せねば!』『こんなことをしていていいのか』という気持ちが離れず、目の前のことを100%楽しめなくて、滞在先でどんどん苦しくなってしまいました。この状態を疑問に思い、かねてよりお付き合いのあった著者の名取先生にその疑問をぶつけてみようと思いました。人生相談なら名取先生しかいないと思っていたからです」(担当編集者)
担当編集者は、自分を急かしてしんどくなっている人の気持ちに寄り添った名取先生の言葉は、がんばりすぎてしまっている現代人の心をそっとほぐしてくれるようなあたたかさを感じたとも言いますが、本書のうち、特に以下の一節が好きだと言います。
■なーに、仮に逃しても、別のチャンスの神様が後から次々にやって来ますから、あわてることはありません(本書『はじめに』より)
真面目でがんばり屋さんな人に捧げる、心を軽くするたくさんのヒントの多くが綴られた一冊です。ぜひ手に取ってみてください。