真夜中の自宅で突然、身に覚えのない「果し状」が見つかったーーこんな投稿がネット上で話題になっています。
鬼気迫る「果し状」→開封し「大の字になって寝ました」
作家の臙脂(えんじ)さんはある日の深夜、自宅に保管していた大量の古本コレクションを整理していました。作業の真っ最中、その中の一冊から何かがするり。鬼気迫る毛筆の筆致で「果し状」。勇気を振り絞って開封すると達筆な毛筆細字がびっしり。読み進めると「昨今の遊興飲食料金高騰(キャバレーはタカいといううわさ)に敢然と挑戦すべく」「大当たり大漁まつり」「当方、若娘(ヤングパワー)の助勢多数」。なんと中身はキャバレーのイベント案内でした。
内容が判明し「大の字になって寝ました」という臙脂さんですが、見つけた瞬間の驚きは相当だったようです。「もともと実話系怪談が大好きなので、ソレ(果し状)が深い怨念の込められた呪物に見え『人生の終わり』を覚悟しました。一連の流れも、ほん怖感が満載でしたし…。10秒ほど固まった後、本を購入してから数年が経過している事実にさらにゾッとし、そこで初めて『果し状』に触れました。一通り読んだあとに店名で検索をかけたところ、同名のキャバレーがその昔、新宿にあったことを知り、安堵と眠気でそのまま寝落ちしました」
「果し状」が挟まれていた書籍は「日本の広告美術 明治・大正・昭和 第2(新聞広告・雑誌広告)」(美術出版社、1967年)。臙脂さんは仕事柄、参考資料として古書を購入することはよくあり「今はだいぶ落ち着きましたが、近代史をテーマにした漫画を書いていた5〜6年前は参考資料として山ほど購入していました」。しかし中から思いがけないものが出て来たのは「今回が初めてです」。
臙脂さんを驚かせた「果し状」。現在は意外な場所に保管されています。「第一印象のせいか自室に置いておくことに若干抵抗があり、今は仏壇にあげています。家にしまいこんでおくのももったいないので、活用していただける団体様に寄贈できればと考えています」。「果し状」に興味のある団体の方は、臙脂さんEメール(tando_enji@yahoo.co.jp)まで。
「果し状」作ったのは…作家・末井昭さんに手がかりを聞く
ネット上で「異常なほどのセンスのよさ」「粋だなあ」「カッコいい」などと注目を浴びる「果し状」を考えたのは誰なのか。
店名を頼りに調べた結果、ある小説にたどり着きました。青林工藝舎のwebサイト「放電横丁」に掲載された連載「流れる雲のように」。クインビーは都内に複数のキャバレーやクラブを展開していたこと、社内には宣伝課があり、店のポスターやチラシ、イベントの企画まで手がける部署だったことなどが書かれています。
作者は「素敵なダイナマイトスキャンダル」などの著書で知られる編集者で作家の末井昭さん。実は末井さん自身、1970年1月から12月の約1年間、クインビー・チェーンの宣伝課で勤務していたことが分かりました。
末井さんに話題の写真を見てもらうと「『果し状』の形をとった店の宣伝だと思いますが、多分僕が入る前に宣伝課で作ったものだと思います。ずいぶん手の込んだチラシだと思います」(末井昭さん)。
末井さんによると、クインビーは上野、駒込、新宿西口、新宿中央口、目黒に展開。宣伝課は上野クインビーが入るビルの最上階に入居しており、同じフロアの一角には赤ちゃんを抱えるホステスのために社内託児所もありました。
残念ながら「果し状」の考案者までは判明しませんでしたが、末井さんの同連載を読むと、午後2時15分の朝礼から始まる宣伝課の業務内容や個性豊かなメンバーのことなど、当時の様子をうかがい知ることができます。
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ネットユーザーの間では現在も、地図に書かれた小田急百貨店の位置などから、「果し状」が突きつけられた時期をめぐって推理が続いています。