家族の不注意で愛猫が下半身不随に…絶望を経験したからこそ伝えたい「脱走防止対策」の大切さ

古川 諭香 古川 諭香

口にするには勇気がいる出来事であるからこそ、積極的に伝えていきたい。そんな覚悟を持つのは個人で猫の保護活動に励む、いとさん(@fukunicopoke)。愛猫ニコちゃんは数年前、家族の不注意により、下半身不随に。その重みを痛感したからこそ、いとさんは安全な室内飼育の徹底を訴え続けています。

家族の不注意で愛猫が下半身不随に

ある日、いとさんは出勤途中に2匹の兄妹猫に遭遇。猫たちは、生後2カ月ほど。体に汚れはなく、捨てられて間もない様子。放ってはおけず、すぐに保護し、動物病院へ連れていきました。

「家族にしようとか里親募集をするとか決めていたわけではなく、子猫が道端にいるのはよくないから保護しようと、体が勝手に動きました」

2匹のうち、貰い手が現れなかった女の子を「うちの子」に。自宅には福くんという先住猫がいたため、「笑う角には福来る」と縁起を担ぐ形で「ニコ」と名づけました。

しかし、保護から2カ月後、事件が。仕事から帰宅したいとさんの目に飛び込んできたのはタオルに寝かされ、力なく鳴くニコちゃんの姿。

「私の留守中、近くに住んでいた家族が家に来て、ベランダの窓を開けたまま昼寝していたら、ベランダからニコが落下してしまったんです」

5階にある自宅ベランダから落ちたニコちゃんは、背骨を骨折。家族は強いショックから、事故当時の記憶を思い出せないようでした。

かかりつけ医が診療時間外だったため、いとさんはすぐ夜間救急へ。レントゲン撮影と初期治療をしてもらったものの、病院では安楽死を提案され、眠れない夜を過ごすことに。

しかし、翌日、かかりつけ医に行った際、「悲観的にならなくて大丈夫。室内で生きるには、何の問題もない」と力強く言ってもらえたことで心が救われ、2週間以内に麻痺が解消されなければ、神経を圧迫している骨折箇所を広げる手術をすることになりました。

「結局、手術は受けましたが、麻痺は治らず今に至ります。マッサージや鍼灸などは中途半端に感覚が戻り、自傷行為に繋がってしまうこともあると目にしたので、麻痺に対するケアはやめることにしました」

愛猫が下半身不随となった事実を受け入れたいとさんは、ニコちゃんが過ごしやすいように自宅を改造。段差をなくし、コード類は端にまとめて脚がひっかからないように配慮しました。

「あと、小さな洗えるマットを敷き詰め、汚れた場所だけを取り替えて洗濯できるようにしています。ニコは寒くなると膀胱炎を発症しやすいので、早めにペット用のホットカーペットを用意します」

ニコちゃんは自力で排泄ができないため、いとさんは何度も病院に通い、圧迫排尿の仕方を勉強。

「ニコは閉まるタイプらしく、おしっこが漏れないので、基本的にオムツはつけていません。ただ、年に数回ある、飲水量が増えたり膀胱炎を起こしたりして、おしっこが漏れる時期にはオムツをつけます」

自由にならない体を人に触られて生きるなんて、誇り高い猫にとっては屈辱的で生き地獄なんじゃないか。実はいとさん、昔はそう思っていたそう。

しかし、ニコちゃんと出会う前、友人宅で下半身麻痺の猫が伸び伸び暮らしている姿を見て、たとえ、障がいを持っていても痛みや苦痛がなければ、充分幸せに生きていけるのだと気づいたそう。

「ニコは優しそうに見えますが、気が強い。鼻に縦ジワをつくって怒ることもありますし、若い時は後ろ足を引きずった状態で家中を走り回り、曲がり角でドリフトしていました。前足だけでどこにでも登っては飛び降り、ヒヤヒヤしたことも。とにかく全てがかわいい、宝物のような存在です」

愛猫の介護から小さな命との向き合い方を教わった

いとさんはニコちゃんの介護がスタートすると同時に、趣味や習い事をすべてやめました。

「でも、不思議と悲観的ではなく、この流れによって自宅で何か始めるのかもしれないと思っていたんです」

そんな矢先、公園で出会ったのが1匹の母猫。母猫は日中、人間の子どもたちと過ごすことを好んでいました。

暗くなると、ひとりぼっちになってしまうあの子をなんとか助けたい。そう思い、近所で聞いて回るも飼い主の情報は寄せられず、母猫のお腹はどんどん大きくなっていきました。

そんな中、ネットで「保護をして出産させ里親を探す」という方法があることを知り、似た経験をした人に相談しながら、保護することに成功。

自宅で5匹の子猫を出産してもらった後、子猫の里親募集をしていると、今度は別の母猫との出会いが。

それにより、自宅での保護がキャパオーバーとなったため、近くにあるペット可のアパートを一室借りて、保護猫のおうち「にゃんこルーム」とし、保護活動にますます力を注ぐようになりました。

「ニコの介護は、猫のために何かできないかと考えるきっかけになりました。目の前の猫を安全な場所で保護し、清潔な飲み水と毎日食べられるご飯、雨風にさらされない寝床を提供して、ずっとの家族を探してバトンタッチする毎日です」

近くの愛護団体や個人ボランティアの手伝い、資金や物資の援助、里親になるなどの猫助けをする人が増えてほしい。そして、近所や知り合いの高齢者宅で猫が取り残されたり、お世話が行き届かなくなっていたりする場合は声かけをし、積極的に関わってほしい。

そう願い、保護活動に励むいとさんは里親さんに対し、積極的にニコちゃんの落下事故の話をし、家庭内の事故を防ごうと奮闘しています。

「前の猫は大丈夫だったから、うちの子は外に興味がないからとおっしゃる方もいらっしゃいますが、猫はみな性格が違いますし、何かに驚いたり興奮したりして思いもよらない力を出すこともある。人間がつい、うっかりしてしまっても大丈夫なように窓の脱走防止柵や玄関への飛び出し防止柵の設置をお願いしています」

猫の完全室内飼いが広まっている今、実体験を交えて予期せぬ事故や怪我の重大さを訴えかけるいとさんの姿は、自身の飼育環境を見直すきっかけにもなりそうです。

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