元阪神・鳥谷敬さんに聞く「監督やってみたいですか?」 鉄人の現在地とこれからのこと

あの人~ネクストステージ

佐藤 利幸 佐藤 利幸

昨シーズン限りで現役を引退した鳥谷敬さんは現在、野球評論家のかたわら野球にかかわる仕事以外にも活躍の場を広げている。先月、情報バラエティ番組「朝だ!生です旅サラダ」(ABC・テレビ朝日系)に出演した際には旅ロケで京都の街を紹介、食レポにも挑戦した。まいどなニュースに対し「自分の出来ること、出来ないことなどが色々発見出来て良かったなと思っています」と収穫があったと明かし、「今後は野球以外のスポーツに挑戦してみたいです」と目標についても口にした。

引退後初の著書「明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック」(集英社)では、18年間に及ぶプロ生活や引退を決意した理由、サッカーが好きだったが父親に勧められて野球の道へ進んだこと、5人の子どもの父として子どもにどう接してきたかなど赤裸々につづっている。また引退後に普通二輪免許を取得したことを報告。今後は大型二輪免許の取得も視野に入れ、いつかハーレーダビッドソンにまたがり「海岸沿いをツーリングしてみたいです」とも言う。

鳥谷さんといえば現役時代、いつも冷静沈着で、グラウンドでは喜怒哀楽の感情をあまり表に出さないことで有名だった。そうした行動は意図的なもので、自分のできること、求められていることを理解し、試合に出続けた。「走・攻・守」バランスの良さは誰もが認めるところで、多くの実績を残した。なかでもプロ野球歴代2位の1939試合連続出場、遊撃手として歴代1位の667試合連続フルイニング出場は鳥谷敬という選手を語る上で欠かせない記録だ。

2017年5月24日の巨人戦で顔面に死球を受けた際には、その後の行動が当時のチームトレーナーを「歩いてロッカーまで戻って、自分でシャワーも浴びた。僕にも弱い姿は見せなかったです」と驚かせている。連続試合出場が途切れるかもしれない心配も、翌日の試合で代打出場し、周囲を安心させた。著書では自分のことを1選手として客観的に分析している。

『常に試合に出てくれるという点では、使い勝手はいい。使う側からすると、一番面倒なのは、すぐにどこかが痛いと言い出したり、相手投手を見て成績が残せそうになかったら休んだりするような選手だ。そういう意味では、鳥谷敬は余計なことを言わないし、淡々とやってくれる。』 

「明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック」より

現役時代はクールな印象を与え続けたが、珍しく自分で作った“ルール”を破ったことがあった。日本代表として出場した2013年のWBC台湾戦。1点を追う9回2死、あとアウト1つで終わりという場面で、二盗を成功させた。その後、井端の適時打で同点のホームを踏むと、珍しく感情をむき出しにしながら、仲間とハイタッチを交わしたのだ。

延長戦で勝利したその試合後、どうして普段は感情を出さないかと聞かれ、「阪神はすごく特殊な球団。ちょっとした言葉、行動がメディアに取り上げられる環境には驚きがあった。それがいいか悪いかは分からないけど、プロ野球はいい時も悪い時も次の日に試合がある。自分のルーティンを作って、感情の波を少なくしなければ結果がでない。ここでは鳥谷敬を演じる必要があったかもしれない」と答えている。

自らのプレースタイルを貫いた18年間だったが、今はかつてのように何かを演じる必要はない。新しく出会ういろいろなことに目を輝かせている。引退後の生活を謳歌している鳥谷さんに「プロ野球の監督をやってみたいですか?」と質問を投げてみた。するとこんな答えが返ってきた。「やるかやらないかは別として、監督、コーチはやりたくないです」。その言葉は現在の偽りのない考えだろう、ただし野球界は卓越した技術や思考能力をもつ鳥谷さんをいつまでも放ってはおかないだろう。

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