保護猫の子猫が仲間入り、気性の激しい老猫との同居を心配 「他の猫をかみ殺すかも」…どうなった?

木村 遼 木村 遼

 兵庫県尼崎市在住のSさん宅には、家族とともに苦楽をともにしてきた黒猫の華ちゃんがいた。すでに17歳の老猫で日向ぼっこが大好きだった。

 「華ちゃんも歳を取ったなぁー」というのが家族の口癖。と同時に「華ちゃんはうちにいて、幸せだったのかな」と考えるようになったという。

 Sさんは母親とよく「もう1匹の猫がいたら華ちゃんは喜ばないかな?」と話していたが、華ちゃんは家族以外を家に入れると「フー!シャー!」とエキサイトし、かりに外猫が窓の外を通ろうものなら激しく威嚇するほどだった。

 挙げ句には外での猫同士の喧嘩をベランダから見ると、いまにも参戦しようとする勢い。2人は「きっと、他の猫を連れてきたらかみ殺すかも」と冗談を飛ばし、華ちゃんがいる間は他の動物は飼えないと決め込んでいた。

 そんなある日、運命的な日が訪れた。2019年5月12日、母の日のこと。Sさんが目覚めると、母親が「6時頃から子猫の鳴き声がするけど、どこにも姿がないのよ…」と心配顔で話しかけてきた。通りがかりの人も立ち止まり、探したそうだが、見つからない。

 父親が「溝のあたりから声がするがどこにも姿がないし、あんまり鳴かへんようなってきたで」と話すので、Sさんも溝を覗いてみたが、やはり姿はなかった。

 「声も聞こえないな」と途方に暮れかけていたら、Sさんの耳の真横から「ニャ~」とかすかに鳴く声が聞こえた。横には三角コーンがあり「この中だ!」とすぐに分かったという。そっとコーンの下を覗くと、そこにいた。子猫はSさんの顔を見て、ビクビクしながらもガラガラになった声で「ニャ~」と鳴いたそうだ。みんなはホッとしたのと同時に「さぁ〜どうする?」と顔を見合わせ「もしかしたら母の日のプレゼントちゃう?」と冗談を言いながら、とりあえず病院へ連れて行き、検査をすることにした。

 子猫は生後1カ月半ぐらいで、目ヤニが出ており、猫風邪と皮膚病を患っていた。しかし、家に連れて帰ると猫嫌いの華ちゃんがいる。そこでSさんは一計を講じ、実家を出ている姉の家の空き部屋を借り、子猫を華ちゃんから隔離して治療することになったという。

 朝、昼、夕、夜と、みんなで手分けしてご飯をあげ、子猫が寂しくないようできるだけ一緒に過ごすようにした。治療中も「華ちゃんはきっと子猫を受け入れられないだろう」と思い、里親を探していたそうだ。しかし、皮膚病は白癬ということが分かり、治療が長引いた。一緒に寝たり、遊んだり、お世話をするうちにだんだんと情が移り、Sさんは子猫を手放せなくなっていくのを感じていたという。

 そこで、ムダかもと思いつつ、何度も華ちゃんに保護した子猫の話を聞かせたり、住んでいるマンションの隣の部屋を借りて子猫を移すなど、どうにかして子猫を迎え入れることはできないかと策を練った。その一方でSさんは正直なところ、家と姉の家とを行ったり来たりする二重生活に疲れ果てていたともいう。

 そして、子猫の病気が完治した頃、華ちゃんの反応を見ようと、一度だけ対面させてみることにした。初対面は、玄関の網戸越しで。するとどうしたことか「シャー!」と毛を逆立て、威嚇したのは子猫の方。何と華ちゃんは優しく「ニャ~」と鳴いたという。

 意外な華ちゃんの反応を受けて、Sさん家族は子猫をケージに入れ対面させ、少しずつ慣らす作戦を立てた。華ちゃんは意外にも興味津々で、子猫を優しく見守ってくれたという。そうするうちに、いい関係ができあがり、いつの間にか2匹で日向ぼっこをするようにまでなった。

 「もう大丈夫だ!うちの子にしよう」

 安心したSさんは、青い空のように元気に大きく優しく育って欲しいという願いを込めて、子猫の名前を青空と書いて「そら」と命名した。青空が来てから寝てばかりいた華ちゃんは、青空の世話をしたり、いっしょに遊んだりしてイキイキと動くようになったという。一方の青空も華ちゃんと遊ぶことをとても喜んでいる様子だった。

 青空には大好きなことが2つあった。華ちゃんと日向ぼっこをすること、それと華ちゃんが自分のしっぽを振って青空がしっぽにじゃれて遊ぶことだ。Sさん家族はそんな2匹の姿に嬉しくなり、幸せを満喫していた。

 「猫が2匹に増え、お世話も2倍になりましたが、華と青空が仲良く暮らせるようになったときは、家族みんなが心底喜び、2匹のいる生活に感謝しかなく、嬉しくてしかたありませんでした。小さな命であっても、意味のない命は一つとしてないと、命の尊さを猫ちゃんたちに日々実感させられたものです」

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