「1粒、口に含んで30秒ぐらいすると口の中から血が吹き出した味がする。歯肉炎になったかと思う。歯が抜けたかと思う。とにかく口の中が血だらけの味する。もう無理だから、今日から私と会う人みんなに1粒ずつ食べさせるからね」
ツイッターにうちゃかさん(@sayakaiurani)がそう投稿したのは、「鐵平糖という鉄の味がする金平糖」。血が吹き出した味、口の中が血だらけの味というパワーワードからか、投稿には約6万いいねがついたほか、リプライでも「特級呪物」「鉄棒舐めまわした味」など気になるレビューがずらりと並びます。
「血の味」と聞くと禍々しいイメージを持ってしまいますが、「鐵平糖」とは一体どんなものなんでしょうか? なぜ血の味? 誰が何のために作ったの? その謎を解き明かすべく、うちゃかさんと鐵平糖の販売元にお話を伺いました。
「血の味(歯肉炎?)」って思いました
ーー鐵平糖はご存じでしたか?
「いただきもので、味は知りませんでした。『おいしいよ!不思議な味!』ともらったんですが食べてみた時、『血の味(歯肉炎?)』って思いました」
ーー実際にほかの人にも食べてもらいましたか?
「担当の歯医者さんに食べさせました。『え?まずい!どういうこと?鉄?血?え?』って言ってました」
ーー完食できたんでしょうか。
「まだ大量に残っています」
ーー大きな反響となりました。
「(鐵平糖の)パッケージデザイナーさんがコメントくださったのがうれしかったです」
やはり血の味がするんですね、一層謎が深まります。鐵平糖を販売するのは福岡県北九州市に構える千草ホテル。ホテルがなぜ謎の金平糖を? 鐵平糖を企画したご本人で同ホテルの企画営業・小野山さんにお話をきくことができました。
利益よりも「八幡を離れて長い方に知らせたい」
血の味がする鐵平糖を作った理由について、小野山さんは「実は血の味というより『鉄の味』なんです。鐵平糖が生まれたのは2015年7月に所官営八幡製鐵が世界遺産に登録されたことがきっかけです」と明かします。
「官営八幡製鐵所は日本の近代産業・経済成長の礎を築きました。1901年から稼働した歴史ある製鐵所で、1914年創業の千草ホテルは目と鼻の先にあり、創業当初の千草ホテルは料亭だったことから製鐵所、地域の方々を迎え、八幡の街でともに歴史を歩んでまいりました。
そんな八幡製鐵所が世界遺産に登録されたとあり、お祝いの気持ちと、観光の方に何か名産品を持って帰ってもらいたい、八幡=鉄の街と知っていただければと思ったのが最初です」。
まず、金平糖の「金」の字を「鐵」にした名前を先に思いつき、「鐵の名物をつくりたいから」と鉄味の金平糖に決定。「製鐵所の『鉄』と、血と汗と結晶である八幡製鐵所の思いを引き継いで、鉄の味と塩味を感じる金平糖にしようと当初は考えていました」と小野山さん。しかし、開発には大変苦労したといいます。
製造をおこなう入江製菓とともに試作を続けましたが、「鉄の味に塩分が加わるとかなり強い血の味になってしまって(苦笑)。 半年以上かけて調整、塩味を抜いた結果、現在の鐵平糖の味に至りました」。その後、2016年3月3日にデビューを飾り、最初に製造したロットは早々に完売。以後は爆発的ではないながらも、地道に売れ続けているそうです。
また、発売後はインパクトのある味わいから、「今までもテレビや新聞などメディアで取り上げていただくことはありましたが、今回は今までで1番の反響です。ツイッターを見て買いに来てくださるお客さまも多数いらっしゃいました」と明かします。
話題が利益につながり、千草ホテルさんも万々歳!かと思いきや、小野山さん曰く「鉄をイメージした特別な和紙を使うなどパッケージもこだわって作っているので、正直利益はほとんどないんです…(苦笑)」。
しかし、千草ホテルさん、小野山さんが見据えるところはそこではないそう。「今回のように面白いと話題にしてもらうだけでありがたいです。なにより『昔、八幡で働いていた』という方に届いていればうれしいです。実は八幡製鐵所は徐々に衰退し、縮小していったがゆえ、昔働いていた方々は全国に散って行かれたそうです。今回はSNSで若い方を中心に話題になりましたが、八幡を離れて長い方に『当時ともに八幡で頑張っていた千草ホテルをはじめ、今でも八幡で頑張っている人・企業がいますよ』というのが届くことを願っています」
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一度食べるとぎょっとする味の鐵平糖ですが、話題性を狙ったものではなく、ホテルが根ざす北九州市八幡東区や、八幡製鐵所への敬意と愛ゆえに至った「鉄の味」だったのです。
ちなみに鉄の味がするのは、表面に薬品由来の鉄の粉をまぶしているから。「舐めると鉄の味を強く感じるので、苦手な方はガリっと噛むと中のお砂糖の味で緩和されますよ」とのこと。
なお、鐵平糖は手作りのため、現在はオンライン販売だと4月上旬から中旬以降の発送となるそうです。価格は432円(税込)で、実店舗では「千草ホテル」、「小倉井筒屋」、門司港レトロ観光物産館の「港ハウス」、「北九州市立いのちのたび博物館」のミュージアムショップで販売中(いずれも完売の場合もあります)。
北九州市に訪れた際は、お土産にいかがでしょう? 味を含め、忘れられないお菓子になるかもしれませんよ。