幻想、非日常、SFの世界…工場夜景はなぜ美しいのか 地獄の業火のようなフレアースタックに心奪われる

小嶋 あきら 小嶋 あきら

「工場の夜景が美しい」と注目されたのは、もうかなり前です。最初は「え?なんで?」と思われた方も多いのではないでしょうか。しかしいまではそれが定着して、多くの人が実際に現地に出かけて景観を楽しむようになりました。

 高度経済成長時代、工場は国の発展のシンボルとして、ある意味誇らしい景色だったようです。例えば昔のポスターなどにも工場の図案がかっこよくあしらわれたものがありますよね。しかしその後、昭和四十年代半ばには、全国各地で水質汚染や地下水の汲み上げによる地盤沈下、光化学スモッグなど公害問題が深刻になって、工場の景色はその象徴のようになって、良くないイメージが広まってしまいました。殺風景だとか、緑がないとか、そういう言われ方ですよね。

 近年になって、技術革新や工場の方々の努力で公害問題が落ち着いてきたタイミングもあるのでしょうか。これまであまり意識されなかった工場の景色が、これまでと違ったアングルから「美しい」と評価される新しい流れが出てきたのですね。

 思うにこれ、いまの成長が滞った時代からの高度経済成長期への憧れ、ノスタルジーみたいなのも下敷きにあるんじゃないでしょうか。大阪万博とか、未来が無条件に輝いてた時代に描かれた「未来都市の絵」のような。そこにサイバーパンクとかスチームパンクというような今風の、SFやらヴィクトリア調のデザインやらが入り混じった世界観みたいなのが流れ込んでるのかなあと、そう感じるのです。

 無機質な中にも生き物のようにくねるパイプ、吹き出す蒸気、まるで地の底から湧き出して空に帰って行く地獄の業火のようなフレアースタック(石油精製などの工程で発生した不要なガスを燃焼させてある程度無害なものに処理すること…煙突の先から炎が出てる、あれです)。まさにSFの世界に紛れ込んでしまったかのような非日常感に、ひとは魅惑されるのではないでしょうか。

 工場という虚飾を排した剥き出しの機構、その外観が期せずしてヴィクトリア調のデコラティブな美しさなどにリンクしてしまうとしたら、なにか不思議なものを感じて興味深いです。

 いや、単純に「キラキラして綺麗だから」なのかもしれないですけど。

工場夜景を見に行こう

 工場夜景が特に美しいといわれるのは川崎市ですが、関西にも多くのスポットがあります。大阪では泉州エリア、高石市などのコンビナート群や、三重県四日市市の臨海工業地帯などです。

 この工場夜景を観光資源として捉えて、たとえば高石市は見学や撮影ツアー、さらには婚活イベントなどに積極的に取り組まれていますし、四日市市も観覧スポットのマップを制作したり、夜景観光クルーズ船なども企画されています。

 ただ、工場はあくまでも製品を作る現場であって、仕事場です。その工場の仕組みや機能には企業ごとの秘密や独自のノウハウなどもあり、外観からそれらが推測されてしまうおそれもあります。なので、一般的に工場側としては撮影など必ずしもウェルカムではないと思われます。また、原料の搬入や製品の搬出など、周辺は大型車が行き交いますので、一般の見物人がうろうろするのも歓迎されないでしょう。

 そして工場の敷地は大抵周囲に塀が巡らされたり木などが植えられていて、外からはあまり見えなくなっています。これはやはり機密保持の面や、むかしイメージが良くなかった時代に景観に配慮したという側面もあるでしょう。

 

 それでもやっぱり工場夜景には、否定し難い美しさがあります。また、この美しさが写真などで広く知られるようになることはイメージアップにもなり、きっとこれからの工場にとっても悪いことではないでしょう。

 立ち入り禁止の場所には入らない、働く人の邪魔をしないと配慮し、夜間など人のいない場所にはできるだけ複数で出かけるなど、安全に楽しみたいものです。

 非日常の世界が味わえる工場夜景の世界。皆さんもぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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