「ワクチンの3回目接種が進まない」実際の課題はどこ、どうしたら解決できるの?

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

オミクロン株流行の中、「ワクチンの3回目接種が進まない」と言われますが、実は「自治体の予約枠は空いている」という状況です。では、実際の課題はどこにあり、どうしたら解決できるのでしょうか? そしてそもそも、政府は国民の様々な不安に十分応えているといえるのでしょうか? 考えてみたいと思います。

なお本稿は、「新型コロナワクチンは、希望する方が接種をする」ということを前提としてお話ししています。(国によっては、新型コロナのワクチン接種を義務付けし、接種しない場合に罰則を科しているような国もあります。)

まず、日本で、3回目接種のスタートが欧米各国に比して遅いのは、そもそも1、2回目の接種時期が遅かったからであるわけですが、これは、2020年のパンデミック当初からの日本の感染状況が、欧米ほど酷くなかったために、海外ワクチンメーカーの最初の治験の対象から外れていたこと等の要因も大きく関わっていました。

(またそもそも、日本で国産のワクチンが無い理由については、『なぜ、日本は「ワクチン後進国」なのか?その「理由」と「背景」』(https://maidonanews.jp/article/14168553)」をご参照ください。)。

1、2回目の時は、接種がスタートしても、ワクチンの供給量が不足し予約が取れない、という状況がしばらく続きました。しかし、3回目となる今回は、状況が違っています。

今回、3回目接種率が上がらない要因としては、以下のようなことがあると考えられます。

①接種の必要性への疑問や重症化リスクが低下したオミクロン株の性質等から、接種をしない、あるいは感染状況の推移等の様子見をしている方が多い。
②交互接種への懸念から、ファイザー製の接種を待っている方が多い。
③日本は、3回目接種を「2回目接種から6か月以上経過した人」に限定している。
④そもそも、今どき「接種券」方式って、どうなの?

具体的に見ていきたいと思います。

3回目接種を希望しない方もいる

オミクロン株の重症化リスクが低いのであれば、ワクチン接種による発熱などの副反応の方を避けたい、接種しても感染するのであれば、接種する意義に疑問を感じてしまう、あるいは、第6波の流行が収まるのを待とうといったことで、様子見をしている方が多い。

どんなワクチンも、時間の経過とともに抗体価等は減少し、また、ブレークスルー感染や、ウイルスの変異によって接種したワクチンの効果が低減することなどもありますが、3回目接種によって効果はかなり回復する(※)とされており、特に、感染しても重症化しにくくなる、といったことから、高齢者などリスクの高い方は、3回目を接種する意義は大きいと考えられます。

(※)英国健康安全保障庁(UKHSA)の報告によると、ファイザー製及びモデルナ製のワクチンのオミクロン株に対する発症予防効果は、2回目接種から2-4週後は65~70%であったところ、20週後には10%程度に低下することが示されています。ここで、3回目の追加接種することにより、その2~4週間後には発症予防効果が65~75%程度に高まることが示唆されています。

また、オミクロン株に対する入院予防効果については、ワクチンの種類毎に解析はなされていないものの、UKHSAの報告によると、2回目接種後25週目以降では44%であったところ、追加接種後2週目以降では89%に回復していることが確認されています。

また、65歳以上の人における、オミクロン株に対する入院予防効果は、追加接種後2~9週で94%、10週以降で89%であったことが報告されており、発症予防効果に比べ、その効果は比較的保たれていると考えられます。(https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0111.html

ただ、重症化リスクの低い若者や子どもに、副反応のリスクを取ってまで接種させたくない、といったお気持ちも、十分に理解できるものであり、その意味では今回、国が、5~11歳への新型コロナワクチン接種について、保護者の「努力義務」とはしない、という方針としたことは、国民感情にも配慮した妥当なものであったと思います。

交互接種への不安(ファイザー製を希望)

1、2回目と異なるワクチンを接種することへの懸念等があり、ファイザー製ワクチン接種の機会を待っている方が多い。 

1、2回目の総接種回数では、ファイザー製8割、モデルナ製2割であるのに対し、3回目接種の自治体への予定供給量は、ファイザー製4割、モデルナ製6割(4月上旬配布分まで)とされており、したがって、前回ファイザー製を接種した方も、今回モデルナ製を接種していただくことが、接種進展のカギとなると言えます。

そのためには、交互接種(異なるワクチンを接種すること)に対する不安を取り除くこと、すなわち、交互接種は安全であり、効果も高まる傾向がある(※)ということを、エビデンスに基づいてきちんと説明し、理解を深めていただくことが有用であろうと思います。(ただし、「そうであっても、自分はやはりファイザー製がいい」という方への理解も必要だろうとも思います。)

(※)英国の研究では、2回ファイザー製ワクチンを接種した後に、3回目接種をファイザー、モデルナで行った場合、IgG抗体の値は、それぞれ8.11、11.49、中和抗体の値は、それぞれ6.6、12.58となったことが示されています。(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000868349.pdf

接種間隔が限定されている(2回目接種から6か月以上)

当初は他国の多くも、3回目接種について「2回目接種終了後から6か月経過後」としていましたが、オミクロン株による感染急拡大等を受け、接種間隔を短縮した国が多くなっています。現在、英国、韓国、ニュージーランド等は3か月、米国等は5か月となっています。

一方日本は、高齢者・医療関係者は6か月、一般の方は、当初8か月としていた接種期間を、予約枠に空きがある場合には、6か月に短縮しましたが、依然として「6か月以降」とされています。

接種期間に制限を設けているのは、2回接種の有効性の持続期間が低減する時期との関係や、前回供給不足で自治体や現場に混乱をもたらしたことの反省から、国が慎重になった面も、大きいと思います。

しかし、オミクロン株の流行に効果的に対処するためには、(本来は流行前に接種しておくことが望ましかったわけですが)、いずれにしても、できる限り迅速な接種が有用であり、そしてまた実際に、予約枠が大量に空いている状況にかんがみれば、「3回目接種を進める」という観点からは、2回目接種から6か月未満であっても、接種を希望する方が接種できるようにすべきではないか、と思います。

この点、日本は、「『2回接種後から6か月以上経過』で薬事承認をしている」わけですが、海外の動向等も踏まえて、安全性と有効性を担保できる期間でさらに短縮することも考えるべきだと思います。

いまどき「接種券」方式って、どうなの? 

自治体で接種券の準備・送付が間に合わない、という声を聞きます。

我が国の様々なデジタル化の遅れの問題は、コロナ渦で大きく露呈したわけですが、ワクチン接種の場面でも深刻に表れていると思います。

少しご想像いただくと、ワクチン接種に関し、接種券を巡る下記のような作業が、日本中で行われているわけです。

・接種券に必要な情報を整理し、印刷し、封入し、郵送する。
・接種会場に持参された接種券に、接種済みのシールを貼り、回収して、接種した方の居住する自治体に送付する。
・接種券に記載された接種情報を基に、接種情報をシステムに入力する(バーコードがうまく機能しない場合は、手入力)。
・接種証明を発行してもらうために、自治体のHPから用紙をダウンロードし、記入し、返信用封筒を封入して自治体に送付し、受け取った自治体は、それを基に接種証明を作成し、印刷し、封入し、送付する。(※専用アプリで電子的に取得することも可能。)

実際、欧米各国や、イスラエル、台湾、韓国、インド等では、新型コロナワクチンの接種は、基本的に、国民に割り当てられたIDカードを基に、電子的に処理されています。「予約→接種→記録→接種証明発行」といった一連のことが、IDカードの情報を用いて電子的に処理され、上記のような「紙」を巡る種々の作業が不要となっています。

そう考えると、我が国では現在も当たり前に行われている「接種券方式」が、いかに遅れたものであるか、そして、そこに投入されている時間やエネルギーやコストが、どれだけ膨大なものであるか、問題の深刻さが浮き彫りになってくるのではないでしょうか。(もちろん、お仕事として、エネルギーを注がれた多くの方々のご尽力には、深く敬意を表します。)

もちろん、個人情報保護は極めて重大なことでありますが、(「医療・介護現場のFAX至上主義による業務の停滞」をもたらしているもの等も同様ですが)、過剰な恐怖心・警戒心を煽ることで、却って国民の利便性や、享受できるサービス水準を大きく損なう事態に陥っているのではないか、他国(国民の自由・人権を尊重する民主的な国)で広く行われていることが、なぜ日本でできないのか、今一度考えることが必要ではないかと思います。

◇ ◇

オミクロン株による第6波も、収まっていく兆しが少し見えてきているように思いますが、当面は医療逼迫への配慮と、そして、我が国は、今後新興感染症とどう向き合っていくのか、「人類はウイルスと共存していくしかない」というリアルとともに、上述したような点も踏まえ、真剣に考え直していくことが、国民の真の安心と日本国の発展のために、求められていると思います。

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