チャッカマン、名前の由来はガッチャマン? 開発チームが富士山に登るのはなぜ? メーカーに聞いた 

松田 義人 松田 義人

 

私ごとですが、この新年、仕事場の石油ストーブを新調し、その着火道具としてホームセンターにチャッカマンを買いに行きました。ホームセンターの店員さんに、その売り場を聞く際、当たり前のように「チャッカマンどこにありますか?」と尋ねました。すると店員さんもまた当然のように「チャッカマンですね。こちらにあります」と言います。「着火器具」「先が長いライター」といった回りくどい呼び名ではなく、「チャッカマン」という商品名で通じる浸透ぶりにふと感動を覚え、改めて調べてみることにしました。

このチャッカマン、東海というメーカーの創業者が今から約40年前の1982年に着眼。翌年の1983年にアメリカで販売したところヒットとなり、1985年には日本国内でも販売を始めたものだそうです。これまでの販売数は、日本国内だけで約2億9千本、海外での販売分を含めると5億本を超えるのだそうです。

言うに及ばず革命的着火器具と言って良いチャッカマンですが、今回は販売元・東海の担当者にその秘密・トリビアについて深く話を聞きました。

訪米の際に招かれたバーベキューパーティで生まれたチャッカマン構想

チャッカマンの販売元・東海は今から50年前、東海精器という名称で設立されました。当時より、いわゆる「100円ライター」「使い切りライター」と呼ばれるディスポーザブルライターの専門メーカーとして発展。以来、従来のディスポーザブルライターだけでなく、点火器具・チャッカマン、カセットコンロ、カセットボンベ、エアゾール製品、筆記具など、様々な商品を世界中に供給しているそうです。

冒頭でも触れた通り、これらの商品群のうち、特にずば抜けたヒットとなったのがチャッカマンだったようですが、開発のきっかけは東海創業者の故・新田富夫さんの思い立ちからだったようです。

「弊社創業者の故・新田富夫が、今から40年前の1982年頃、アメリカに出張した際、バーベキューパーティに招待されました。アメリカの人々が、屋外で豪快にバーベキューを楽しむ様子を見た新田は『このようなアウトドア志向は、日本に伝播し、やがて定着する日が来るだろう』と直感。合わせて、アウトドア環境下でライター代わりに安全で使いやすい着火器具の必要性を感じ帰国します。

当時の先端の長い着火器具は、高価な注入式の点火棒などが主流でしたが、新田は、かつて高級品だったライターを100円のディスポーザブルライターに転じたように、高価な点火棒を安く安全で便利な商品として開発・販売することを目指します。

その後、1983年にチャッカマンのファーストモデル(GM-1)を、アメリカ市場向けに『BBQ』という商品名で販売したところヒットしました。この2年後の1985年には、さらに改良を加えたセカンドモデル(GM-2)を日本国内向けに『チャッカマン』の商品名で販売を開始。予想を上回る反響を呼び、現在まで『遠いところに火を着ける』着火器具として、また女性からお年寄りまで、誰でも安全で便利に火をつけられるアイテムとしてご支持をいただいています」(東海・担当者)

  

チャッカマンのネーミングの由来は『ガッチャマン』から!?

ところで、冒頭で筆者が感じた「チャッカマン」という商品名の浸透ぶり。類似商品が少ないがゆえの共通言語となっていることはわかるものの、このどこか愛らしい名前も、多くの日本人に受け入れられたのではないかと思います。「チャッカマン」のネーミングにはあるモチーフからインスパイアされたもののようです。

「発売当時、テレビアニメでは『ガッチャマン』などが大人気で、『~マン』というネーミングが社会に広く浸透し親しまれていました。この風潮から、日本では『着火』+『マン』という造語を商品名としました。確かに小さなお子さんから大人まで、馴染みやすいネーミングだったようで、弊社のチャッカマンのみならず類似製品を代表するような、いわゆる『製品代名詞』になりました」(東海・担当者)

新モデル開発・主要部品変更の際は、開発メンバーたちが必ず富士山を登る!

また、チャッカマンをめぐるトリビアはこれだけにとどまりません。発売前後のいわば「チャッカマン黎明期」の頃には、同社では様々な試行錯誤を行なっていたようです。

「チャッカマンを日本で販売する際、全国的に支持があるかどうかがわからなかったこともあり、まず山梨県でテスト販売を行いました。すると予想を超える売り上げ・反響があり急きょ全国販売に切り替えることになりました。

また、チャッカマンを販売した当初、お客さまから『高い山の上だと点火しない』といった声をいただきました。当時の開発メンバーはその現象を確認するために、30本のチャッカマンをリュックに入れ富士山に登ることにしました。5合目(約2500メートル)、7.5合目(約3000メートル)、山頂(約3700メートル)の山小屋をお借りし着火実験を行いましたが、そこでわかったことは2500メートル以上の高地では、極端に着火率が落ちることでした。以来、弊社の試験基準に『標高別着火試験』というものが加わり、チャッカマンの新モデル開発や、主要部品が変更された際には、開発メンバーたちが必ず富士山の5合目まで登り、着火試験を行います。

ただし、この試験を行えるのは、例年5〜10月の登山道が開放される期間に限られており、その期間を逃すと、翌年の5月までプロジェクトが延期されてしまうのが難点です」(東海・担当者)

 

チャッカマンの需要が高まるのは冬だけでなく夏も!

ところで、チャッカマンと言うと、筆者のように石油ストーブなどに着火する際の用途などで冬が最も売れるのではないかと思っていましたが、実は冬はもちろん、夏も最大の需要期になるのだそうです。

「冬は一般家庭だけでなく、飲食店・旅館などで使われるお鍋、ストーブなどの着火に使われることから確かに需要期ですが、夏も需要が高まる時期です。花火、キャンプ、線香、ローソクなどへの着火ニーズが高まるからです」(東海・担当者)

また、今日ではベーシックタイプのチャッカマンだけでなく、様々な用途に応じたチャッカマンのバリエーションもリリースされています。

 

 

 

人・環境により優しい製品を目指し、進化し続けるチャッカマン

2011年から、幼児によるライターやチャカマンなどの事故防止を目的にし、消費生活用品安全法による「チャイルド・レジスタンス(CR)規制」が義務付けられ、現在発売中のライター類の大半にCR機能が付けられています。ただし、東海ではこういった法令改正以前より、チャイルド・レジスタンス機能搭載を取り組んでおり、その安全性や品質が認められ、法令改正前の2010年にして、すでに「子どもに安全な製品」として、東海のチャイルド・レジスタンス・ライターのアンチャッカブルが、ライター分野として初の「キッズデザイン賞」を受賞したそうです。

「現在はチャイルド・レジスタンス機能でも、従来より着火レバーを重くしたタイプや、2段階式のものを搭載したチャッカマンもあります。

このことで『重くなった』『使いずらい』といったお声も確かにいただきますが、何よりお子さまの事故防止をできるだけなくそうと考えてのことですので、どうかご理解いただきたいです。

また、日本国内で製造しているチャッカマンは抗菌仕様となっており、コロナ禍でも安心してご利用いただいています。

こういった取り組みは今後もより良く改善し続け、さらにSDGsを視野に入れ、人・環境に優しく安心していただけるチャッカマンを開発・製造・販売していきたいと思っています。今後も多くの方にご利用いただけることを願っています」(東海・担当者)

 

チャッカマンのアイディアが生まれたのが今から40年前。さらに日本市場にチャッカマンが登場したのが今から37年前。半世紀に満たない間に、これだけの浸透に至った工業製品はそうはないと思います。それだけチャッカマンの開発が革命的であり、人々の生活によりそった製品だったということでしょう。今回の取材で、改めてチャッカマンのすごさを実感しました。

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