寂しくないよう「2匹一緒に引き取りたい」 願い通り、姉妹のように育った猫は夫婦のかすがいに

渡辺 陽 渡辺 陽

保護猫を迎えよう

アイナちゃん(メス)とリコちゃん(メス)は、栃木県の動物愛護指導センターにいた。愛護指導センターにいたのでどのように保護されたのか詳細は分からないが、アイナちゃんは兄弟姉妹と一緒に2014年4月頃にセンターに来たそうだ。リコちゃんは2014年6月にセンターに来たという。

栃木県に住むIさん夫妻は保護猫を探していた。Iさんは猫を飼ったことがなかったが、妻は生まれた時からずっと猫のいる家庭で育った。そのため、結婚する前から妻は「結婚したら猫を飼いたい」と言っていた。Iさんは、犬や猫が好きでも嫌いでもなかったが、今思えば、結婚前から妻に「いつか猫を飼う」と刷り込まれていたような気がするという。

「妻の実家で飼っていた猫たちは皆、家の前に捨てられていた猫や知人宅で生まれた子猫で、ペットショップで買った子は1匹もいませんでした。そのため、保護猫を迎えるのは自然なことだったようです。私も、命を助けられたら良いと思い、保護猫を迎えることにしました」

きたーーーーー!

夫妻は、猫を譲渡してもらうために事前講習を受け、譲渡可能な猫が保護されるまで、センターからの連絡を待った。
「連絡を心待ちにしていたので、6月に電話がかかってきた時は、『きたーーーーー!』という感じでした(笑)。電話を受けたのは妻で、私は出張中だったので、自宅に戻り次第すぐにセンターに向かいました」

予定時刻より少し早めに着いてしまったので、夫妻は猫たちが入っているケージを遠目から眺めていた。中でもひときわ大きな声でこちらに向かってにゃーにゃー鳴いている子猫がいたので、夫妻は、「あの子かな?」などと期待に胸を膨らませて話していた。

共働きなので、日中寂しくないようにと、最初から2匹譲渡してもらうつもりだった。猫同士の相性が心配だったので、兄弟姉妹のオスとメスを希望していたが、その時は、兄弟姉妹のオスとメスはいなかった。どうしようかと悩んでいると、センターの職員が、「この子たちなら相性は良いと思いますよ」と連れてきてくれたのが、アイナちゃんとリコちゃんだったという。

アイナちゃんは、マイペースでおっとりした性格。里親候補の人たちが見に来ても、眠いと寝床の奥へと入っていってしまった。そのため、あまり愛想がよくないと思われたのか、他の兄弟姉妹が貰われていったのに、1匹だけセンターに残っていた。リコちゃんは、夫妻が「あの子かな?」と話していた子だった。夫妻を見上げてにゃーにゃー大きな声で鳴いていたが、抱き上げると鳴きやんだという。「血のつながりはありませんが、メス同士だし、何よりも、一番近くで見てきたセンターの職員さんのお墨付きがあったので、この子たちに決めました」

姉妹のように仲良く

家に連れてくると、最初は2匹とも脱衣所の奥に隠れてしまった。数時間経つと、リビングに出てきて、その日の夜にはソファーの背にもたれて寝てしまった。翌日からは、Iさんと妻が交代で昼休みに一旦帰宅して、世話をした。「ちゃんと2つのお皿に、それぞれのごはんを用意しているのに、なぜか、1皿を2匹で奪い合いながら食べていました」

アイナちゃんはとても穏やかで、マイペース。寝るのが大好きで、お気に入りの寝床で気持ちよさそうに眠る。そこにリコちゃんがやってきて、アイナちゃんを枕にして寝ることがあるが、それでも怒ることなく、リコちゃんの下敷きになったまま寝ているそうだ。ただ、朝ごはんを要求して、早朝にIさんを起こす時は豹変する。みぞおちの上にジャンプして、喉元を踏みつけ、耳の中に湿った鼻先をこすりつけ、最終的には砂を掻くようにIさんの頭を掻き続けるという。

リコちゃんは、犬のような性格。甘えん坊で、お腹を撫でられるのと、膝の上に乗るのが大好きだ。家に帰ると真っ先にお出迎えしてくれる。にゃーにゃー鳴いて「撫でて!」と要求するのが激しすぎて、困ってしまうこともしばしば。Iさんがテレワークでリモート会議に参加している時、リコちゃんの鳴き声が入ってしまうのは、日常茶飯事なんだという。アイナちゃんとリコちゃんは本物の姉妹のように仲良しで、夜はいつもくっついて寝ているそうだ。

猫はかすがい

Iさんはアイナちゃんとリコちゃんを迎えるまでペットを飼ったことがなく、ペットの写真をスマホやパソコンの待ち受け画面にしている人の気が知れなかった。しかし、今では、スマホの待ち受け画面もパソコンのスクリーンセーバーも猫の写真。写真のフォルダもほぼ猫で埋まっているという。また、Iさんはこの6年間で、猫の餌やりやトイレ掃除にとどまらず、ブラッシング、爪切り、歯磨き、投薬、シャンプーなど、一通り世話ができるようになった。今では同僚から猫の飼い方に関する相談を受けるまでになったそうだ。

それだけではない。2匹は夫婦喧嘩の不穏な空気を取り除いてくれる。リコちゃんは、夫妻が険悪な雰囲気になっていると、必ずやってきて、夫妻の間に座り、まるで仲裁をするかのように顔を交互に見上げる。イライラしているIさんの怒りを収めるように甘えてくることもあれば、落ち込んでいる妻に寄り添うようにくっつくこともあるという。アイナちゃんは、家の中がどんなにピリピリしていても、どんよりしていても、いつもと変わらず、ご機嫌に過ごしている。

「そのあっけらかんとした姿に、イライラしているのが馬鹿らしく思えてきたり、ほっとさせられたりします。今や、我が家の平和は猫によって守られていると言っても過言ではありません」

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