日々酷使される都市高速道路では、常にメンテナンスなどの工事が必要です。車線規制や通行止めで交通渋滞が避けられませんが、その影響を少しでも抑えようと、かつて阪神高速道路ではある特殊な装備が使われていました。
クルマが走る下で工事ができる画期的なアイデア
その装備の名前は「ミニウェイ」。どのようなものかというと、「トレーラーで運ぶことのできる仮橋」です。工事が必要な場所に設置して、クルマが通れる車線を確保した上で、その下に作業できるスペースを確保するという、とてもシンプルながらちょっとぶっ飛んだアイデアですね。いや、もしかしたら思いつくことはあるかと思うのですが、実際にそれを提案するのはちょっと勇気が必要だったのではないかなあという意味で、です。
それまでに前例がなかったものですから、たとえば法令上これが道路なのか建物なのか、それとも機械なのか、といったこと、またそれ以前に「本当にそんなものが作れるのか」という基本的なところにまで、たぶん様々なハードルが立ちはだかったことでしょう。
それらを乗り越えて1987年に「ミニウェイ」は完成、1989年から実際に運用されることになったのです。
まさに巨大合体メカ
ミニウェイは全長88メートル、7つのモジュールで構成されていました。それぞれのモジュールは大型トレーラーに載せて工事現場まで運ばれ、現地で降ろして組み立てられます。ミニウェイにはモジュールごとにディーゼルエンジンが搭載されていて、両端の2つは二輪駆動、中央の5つは四輪駆動、しかも全て四輪操舵で、低速ですが自走することができました。
トレーラーから降ろされたミニウェイの7つのモジュールは、自力でゆっくりと寄りついて、一体になって仮橋として機能するのです。なんとなくものすごく「巨大メカ」ですよね。しかもこれ、合体したまま工事範囲を低速移動できるんです。全長88メートルのものが道路上を移動するって、考えてみるとすごいですよね。ただし、道路上を移動している場合でも、ミニウェイは法律上は「車両」ではなく「一般機械」なのだそうです。これは道路であってもあくまで「作業区域に設定された範囲内」の移動だから、ということですね。
ついでに法律上の定義でいうと、稼働中のミニウェイの路面は「仮橋」、路下は「作業区域」、トレーラーに積まれて移動するときには「一般貨物」ということです。
また、トレーラーで運ばれるときのミニウェイの横幅は2.95メートル、設置されると横に拡大して外寸3.5メートル、仮橋の幅員(クルマが通れる幅)3.1メートルでした。
使用されたのは1989年から1999年の10年間でした
ミニウェイを用いた工事は、事前にラジオなどで周知されていました。「阪神高速ミニウェイ〜♪」という女性の声のジングル、それに続いて工事区間と時間が告知されるのですが、耳に残るというかこれ筆者はまだ記憶に新しいです。わりと最近まで聴いていたと思ったのですが、もう四半世紀も前のことらしいです。
工事区間では、搬入の30分前から車線を規制します。そしてトレーラー7台に載せられたミニウェイが現地に到着、順次降ろされて合体します。並行してミニウェイ規制の周知看板を設置、搬入からミニウェイ上をクルマが通れるようになるまでに約30分から40分かかりました。
ミニウェイを走ることができるのは重さ3トンまでの乗用車で、制限速度40km/hに規制されていましたが、完全に通行を止めて一車線規制するよりは交通への影響は少なく、もちろん渋滞もしにくくなりました。またミニウェイの下には高さ1.9メートル、幅3.25メートル、長さ6メートルの安全な作業スペースが確保されます。
このように画期的なミニウェイでしたが、その後1999年を最後に運用は休止されます。
それまでにミニウェイを使った作業は合計125回実施されましたが、主に道路の継ぎ目(ジョイント)の交換でした。そのジョイントの部品としての耐用年数が向上したこと、また道路のノージョイント化などで、工事の頻度が少なくなったのです。加えてミニウェイは運用コストが高く、工事自体が少なくなれば休日の一車線規制で対応した方が費用対効果が良いという判断もあったといいます。それで、使用開始から10年でミニウェイの耐用年数が切れたことをきっかけに、運用休止が決定したのでした。
阪神高速道路でのミニウェイは役目を終えましたが、そのアイデアはいまも斬新で、2018年にはNEXCO中日本が二車線化したミニウェイを検討していたということもあるようです。
またいつかどこかでミニウェイが見られる日も来るかも知れませんね。