連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」を観ていると、和菓子が食べたくなる。物語の初代ヒロイン・安子(上白石萌音)の生まれた家は、小さな和菓子屋「たちばな」を営んでいる。そこで生まれる和菓子は、物語を彩る欠かせない「キャラクター」の一つになっている。和菓子を手がけ、また現場の指導や考証を担当するのは、大阪府にある「御菓子司 吉乃屋 松原」の店主中西信治さん。物語の世界観を作り出す和菓子のポイントについて、中西さんに伺った。
「まず、劇中の『たちばな』の世界観を作る上で意識したのは、『気軽に立ち寄れる商店街のお店。ご近所のお母さんや学校帰りの子どもたちがやってくるイメージの商品』です」と中西さん。「例えば、私たち『吉乃屋』のおはぎの大きさは55グラムですが、『たちばな』のおはぎは80グラムにしたり、大福もまん丸ではなく、ベタンとした形でガブリと食べられるようにするなど、庶民的な和菓子に仕立て上げました」
商品ラインナップにも職人のこだわりが光る。
「たちばな」といえば、あんこ。そのため、まずはおはぎを店の名物商品に据えた。また本作にはシーンの年月がテロップとして表示されていないが、和菓子の種類で季節が把握できるのもポイントだという。
「季節ものを10種類ほど用意しました。例えば5月は柏餅、6月は水無月、夏の真っ最中ならわらび餅や水羊羹。今でも、和菓子を食べて『あぁ、もうこんな季節なんだな』と思いますよね。これは今も昔も変わらない感覚なのだと思います」
しかし戦争が激しくなるにつれて、砂糖が簡単に手に入らなくなり、豊富だった「たちばな」の和菓子の種類はだんだん減っていった。当時の和菓子作りについて、中西さんはこう話す。
「おはぎに使うお餅の原料を変えたり、代わりに穀類などを使ったお菓子が出てきたりします。例えば、さつまいもを飴にした『いも飴』なども現れるようになります」
中西さんは、出演者の和菓子作りの指導も担当した。特にヒロインの上白石さんの手さばきが素晴らしかったという。
「非常に上手で、見た目もきれいで、おまけに動きも早い。稽古に2時間ほどいただいていたのですが、30分ほどで終わったんです(笑)。そして驚いたのが、橘金太を演じた甲本雅裕さんの器用さ。甲本さんは左利きなのですが、右手で和菓子作りをしているんですよ。たちばなで働く職人のみなさんも観察力が素晴らしく、細かい手の動きや作法をみるみるうちにマスターしていらっしゃいました」
広報プロデューサーの齋藤明日香さんによると、「和菓子も大切なキャストの一人」とのこと。撮影中も、まるで俳優が現場に入るかのように「和菓子、入りまーす」と歓迎ムードで迎えられるそうだ。
作中に登場する和菓子は、すべて実際に中西さんが手掛けている。「御菓子司 吉乃屋 松原」のあんは粒が大きく、控えめで上品な甘さが魅力的だ。
「今、『カムカムエヴリバディ』の影響で、いろんな和菓子屋さんでおはぎが人気だそうです。嬉しい限りです」。「たちばな」の世界観を重ね合わせながら、ぜひ味わってもらいたい。
◾️『カムカムエヴリバディ』:https://www.nhk.or.jp/comecome/