10月30日、11歳のオス猫を連れて私は大阪の動物病院へ向かった。猫の名前はララ。この日はララの4回目の歯の手術となった。
「ペット不可」の市営住宅で11匹の猫たち
ララは今年の3月まで「ペット不可」の市営住宅で1人暮らしの飼い主のもとで暮らしていた。そこでは11匹の猫たちと一緒に過ごしていたが、市営住宅の取り壊しのため退去が決定。これまで飼い主はこっそり猫を飼育していたが、次に住む市営住宅には猫たちを連れて行くことができず、宝塚市にある当団体に相談が入り、この子たちを保護した。
みんなしっかりとした体型で、とても人懐っこい性格をしている。毛色もみんな茶色いキジトラ柄でクリクリとした目をしており、顔もそっくりだ。
飼い主さんによると、ララがお父さん猫で、他の猫達はララの子どもだと言う。保護した時は既に全頭不妊手術が施されていたが、それまでに家の中で繁殖してしまったのだ。11匹の猫はとても人懐っこくて、大切に飼われていたようだ。ただし、お父さん猫のララは口内環境が悪く、口内炎がひどかった。かかりつけ医に相談し、抜歯手術をすることになった。1回だけでは良くならず、2回手術をすることになった。それでもララはよだれが出て、口の中は良くならない。
そこで大阪にある口腔外科に力を入れている動物病院へ行くことを決めた。ララと一緒に保護したキキ、ミミ、ももたの3匹にも同様の症状が見られ、さらに2019年9月に保護した大福も口内炎が酷かったため、みんなまとめて診てもらうことにした。
ちなみに、ミミも含め、全頭オス猫で、ももた以外は猫エイズキャリアである。4月末に5匹を連れて大阪の動物病院を伺うと、周囲から「大きな猫さんたち!」と驚かれた。確かに、猫たちはどれも大きな体をしており、特にキキは7キロ以上あり、迫力がある。
順番に診察してもらい、結果は「全頭抜歯手術が必要である」とのこと。一番症状がひどかったララから手術をすることになった。それから半年以上。術前検査、手術を経て、現在も2週間に一度の経過検査をしている。
頭数が多いため、通院は隔週にし、2グループに分かれることになった。毎週火曜日が通院日で、ララ、大福を診てもらう週と、キキ、ミミ、ももたを診てもらう週である。幸い、みんな徐々に良くなっていったが、なぜかララだけが顔をよく振るようになった。よだれを出して痛そうにしている。
私は「少し口内炎が悪化しているのでは?」と疑い、診察の際に相談をした。獣医師から「お薬を変えましょう」と言われ、使っていた抗生剤の変更、また投薬間隔を減らしていたステロイドを少し増やして与えることになった。
しかし、あまり改善が見られず、もう一度麻酔下で口腔内に痛みの原因になっている物がないか、診てもらうことになり、こ10月30日に検査の予約をとった。その際に異常が見つかれば、そのまま手術をしてもらう話になった。
10月27日の通院日。獣医師から「腫瘍などが原因で、首を振るなどの神経症状がみられる子もいます」と聞かされた。脳の腫瘍であれば、MRI検査が必要だ。そして迎えた当日の10月30日、心の準備をしてララを検査のため病院へ連れて行った。
高齢猫に、なかなかお声がかからなかったが…
実はララには、一緒に通院している大福と2匹で里親になることを希望しているご家族がいる。ララと大福はエイズキャリアであり、特にララは11歳と高齢であるため、なかなか声がかからなかった。しかし、そういった子に目を向けて、2匹一緒に迎えると言ってくれたとても優しいご家族である。
私たちはできる治療はすべて施してから里親に出したいと考えているため、何カ月も待ってもらっている状態だった。少し前までは調子がいい方に向かっていたため、11月1日をトライアル開始日としていた。
そこで、今回の件をご家族に伝えると「気長に待ちます」と温かい言葉を返してくれ、2匹を迎える気持ちは変わらない、とのことだった。
一方、同じく口内を治療中のミミは、過去に一度家族に迎えたいと声がかかったが、口内治療に入ったことでトライアルが白紙となった。ただし、これは決して悪いことではなく「健康な子を迎え入れたい」と思うのは普通なことであり、治療が必要な猫を家族に迎えることは想像するまでもなく、大変なことなのだ。
それだけに、私たちはララを優しい里親につなげるためにも、そして幸せな猫生を送ってもらうためにも「腫瘍でありませんように」と祈るばかりだった。
当日、午前診察でララを預け、午後からいよいよ検査が始まる。検査には時間がかかるため、その間に別件の子猫のトライアルへ向かった。ありがたいことに週末ともなると、猫のトライアルが多数入っており、多い時は5件以上お届けへ走ることになる。
夕方、病院から電話が鳴り、ドキッとした。獣医師から「終わったので、お迎えお願いします」と言われた。ちょうどトライアルのお届けが終わったタイミングで、そのまま病院へ。「どんな運命が待ち受けているのだろう」と気をもみながら診察室の扉を開け、獣医師からララの状況を聞いた。
すると…。獣医によると麻酔下で口の中に指を入れて歯茎を触った時に「これが原因かな?」という、小さな突起が見つかったらしい。歯茎を切開すると、その奥にある骨に小さな突起が見つかり、除去してくれた。
獣医師は「過去に同じ様に小さな骨の突起により痛みがでて、ララちゃんみたいに首を振る子がいたんです」と言った。どうやら腫瘍ではないようだ。まだ確実ではないが、考えられる原因を1つ1つ潰して痛みの原因を特定するしかない。
とりあえず、今回は無事に手術が終わり、ララをシェルターに連れて帰った。その後、数日は顔を振ったり、食事量が落ちたが、いまでは徐々にそんな面も減ってきている。まだどうなるか分からない状況であるが、いまはララが回復することを願うばかりだ。