写真は柴犬ホクトくんが迷子になって5日目、飼い主の犬飼しょうこさん（仮名）と感動の再会を果たしたときのものです。撮影したのは犬飼さんの上司。犬飼さんはあるベンチャー企業に勤めているのですが、ホクトくんが迷子になったと報告すると、見つかるまでリモートワークでも休んでもいいと言ってくれ、さらに同僚たちも捜索に協力。犬飼さんが捜索中にホクトくんが自力で帰ってくる可能性も考えて、玄関ドアを開けておけるようにと、一人の上司が毎日、早朝から深夜まで待機してくれていたというのです。その上司が写真の撮影者。なんて従業員とその“家族”に優しい会社なのでしょうか。
「上司は玄関前でパソコンを開いてリモートワークしてくれていました。蚊に刺されながら（苦笑）。捜索の初期に、クロネコヤマトのドライバーさんに声を掛けていたんです。すると後日、家まで来てくれて、『チラシがあればみんなで共有します』と。私が豪雨の中、自転車で辺りをグルグル回っていたのと、玄関前に男性がずっといるのを見て、気に掛けてくださったようです」（犬飼さん）
もともと親切なドライバーさんなのでしょうが、玄関先でリモート会議をしている（ように見える）男性を目にしていなければ、わざわざ家まで来てはくれなかったかもしれません。
ホクトくんが迷子になったのは6月22日。散歩をしていると突然、知らない男性が「オマエはなんだ！」と恫喝してきたそうです。その声に驚いたホクトくんは制御が利かなくなり、首輪が外れて逃走。乗用車と接触するとさらにパニックになり、とうとう見失ってしまいました。
実は、ホクトくんは元の飼い主に飼育放棄された犬でした。昨年12月、犬飼さんの車の前に飛び出してきたホクトくんは、憔悴し切っていたそうです。保護して警察に届けると、しばらくして飼い主が現れましたが、その後、連絡が付かなくなり、所有権は犬飼さんへ。最初は無表情で、大きな声や長い棒に極端に怯えていたと言います。時間を掛けて人間の愛情を伝えることで、ホクトくんは表情豊かな甘えん坊になっていましたが、散歩中に突然、大きな声で怒鳴られて、かつてのトラウマを思い出してしまったのでしょう。
ホクトくんを見失い、今度は犬飼さんがパニックに陥りそうなものですが、実に冷静な判断と行動をします。まず警察を呼んで事故の処理。そのまま交番で迷子（遺失物）の届出をし、動物愛護センターと近隣の動物病院数軒にも連絡しました。それらと同時に行ったのが自転車の購入です。
「近くのホームセンターに電話して、20分で自転車が買えるように準備してくださいとお願いしました。車を買い替えたばかりだったのと、車にぶつかったことで、ホクトが車を怖がるかもしれないと思ったんです」（犬飼さん）
次は迷子チラシです。『ドコノコ』という犬猫写真投稿SNSアプリでチラシを作成できると知り、すぐに登録。コンビニで印刷して配布を始めました。ここでも犬飼さんは冷静に動きます。
①犬を飼っていることが分かるシールのある家や、犬の置物がある家を中心に。
②犬の散歩の時間に合わせて公園で。
③暑い日だったので、水を求めて動くと予測して水場のある公園へ。
④地域の子どもたちがキーになると考え、近隣の小学校や児童センターへ。
実に無駄のない動きです。でも目撃情報はありませんでした。最初の3日間は徹夜。座ると寝てしまうからと休憩も立ったままだったそうです。4日目は少し眠りましたが、それでも30分。犬飼さんを突き動かしていたのは、ホクトくんを見つけてあげたいという気持ちだけではありませんでした。
「会社の人たちや地域の皆さんだけでなく、SNSを見たたくさんの方がリツイートしてくださったり、コメントをくださったり。心折れそうになるたび勇気づけられました。皆さんの気持ちをホクトに伝えたいと思ったんです」（犬飼さん）
初めての目撃情報は近所のお寺からでした。「近くの畑で、チラシの写真に似た柴犬を見た」。さすがの犬飼さんもこのときばかりは冷静でいられず、スマホを持つ手が震えたと言います。でも、現場に駆け付けたときにはまた、冷静な犬飼さんに戻っていました。
「ホクトの気持ちになって考えてみたんです。相当、緊張しているだろうし、逃げたことを怒られると思っているかもしれない。だから畑でホクトを見つけたときは、できるだけ普通の声で話しかけました」（犬飼さん）
ホクトくんは安心して犬飼さんの胸に飛び込んできてくれました。お腹がすいていたのでしょう、その日は丼3杯分のごはんを食べたそうです。迷子の間に中毒性のものを食べたのか、腎臓の数値が悪くなっていたそうですが、投薬治療で回復。車と接触したことによるケガも軽症で、今は首輪とハーネスにダブルリードを着けて元気にお散歩しています。
