どこにいても受講や指導が可能な遠隔プログラミング授業システム「C2Room」を採用する大学、企業が増えている。AIと指導者が連動して効率的な集団型の教育を実施でき、受講者のノートまで見えるのが特徴。その上、講師不足もカバーできるという。開発したのは工学博士の平尾俊貴さん。すでに昨年5月から奈良先端大でスタートし、この4月から九州大や京都女子大でも採り入れられている。
教育の場を中心に塾や企業などでの採用も増加中
このシステムの中心的な開発者である平尾さんは大阪教育大を卒業後、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科で博士(工学)号取得。日本学術振興会特別研究員DC1として採用され、主にソフトウェア工学、機械学習、ビッグデータ分析を専門としている。
特に海外での研究成果が顕著であり、カナダの McGill University で 1年間研究員として、ソフトウェア開発プロセスの自動化に関する研究に従事。 その後、アメリカにある世界最大手の研究所「ABB Corporate Research」にて、産業用ロボット関連の最先端研究プロジェクトを牽引。帰国後の2020年4月に大学発ベンチャーとして株式会社「dTosh」を創業している。
その平尾さんと、奈良先端大の松本健一教授、石尾隆准教授が開発したのが完全遠隔で授業が可能なプログラミング授業システム「C2Room」だ。
最大の特徴は、指導者や学生の居場所を問わず、遠隔で集団型のプログラミング授業を実施できる点。従来は数人の指導者(教員、補助指導者など)と10人~40人程度の学生らが教室に集まり、指導者らが各学生のプログラムを直接添削指導する方式がメインだった。ところが、今回の授業システムでは学生がオンラインで授業に参加し、指導者らは遠隔で各学生の進捗状況をクラウド上で一括管理できるのが特徴だ。
また、AIが困っている学生を自動検知する機能や、よくある質問を対話形式でAIが自動対応する機能も開発。このシステムの導入により、国内外を問わず、様々な専門講師(地域、大学、企業の専門家)から遠隔で技術支援を募ることが可能となる。さらに、文科省が1人1端末と掲げる「GIGAスクール構想」などの政策を進める中で、教育現場が直面しやすい「専門講師の不足」を解消することも期待されている。
オンラインなのに、手に取るように生徒の状態がわかる!
今回のシステムのすごさについて「生徒の手元というか、どんな回答をしているかが見えるところ」と平尾さん。「顔や声だけでなく、手元のノート内容が見えるようになっていて、そのため、一人ひとりの生徒の情報確認ができるのはオンラインでは珍しい」と語る。
実は、平尾さんがアメリカでオンライン研修に携わっている時に「誰が困っているのかわからなかった」ことから「生徒一人ひとりの手元が見えるシステムの開発にも力を注いだ」という。
また、インストールせずにパスワードを入れれば、即アクセスできる点も見逃せない。「パソコンに制限があるとダウンロードできないという声を聞くことがある。そこで、どんなパソコンでもタブレットでもパスワードを入れるだけで利用できるようにしている」と話す。
すでに奈良先端大をはじめ、九州大、京都女子大の各大学でスタート。他に有名企業の名前も並ぶ。導入の際の条件や価格が気になるが「誰でも利用でき、1アカウントから申し込めます。必要な利用者数に合わせて、お得な価格で提供しています」とリーズナブルな点も魅力的のようだ。
「開発は今も進んでいます。もっと便利に使えるようにしたい」と平尾さん。「C2Room」がどう変わっていくのか。今後の動向にも目が離せそうにない。