完全に出番失ったアベノマスクを有効活用! おいしい野菜は育つのか、種をまいてみた

京都新聞社 京都新聞社

 「アベノマスク」が、京都市内の我が家に届いたのは、1年前の5月下旬。試しに1週間着けてみると、縮んで使いにくかった。「再びマスク不足になった時のため」と保管していたが、マスクの流通は極めて順調で、アベノマスクは完全に出番を失った。せっかく国が無料でくれたのだから、何か活用できないか…。思案の末、アベノマスクで野菜を栽培することにした。

 我が家に届いたアベノマスクは縦9・2センチ、横13・3センチ。一般的な市販の不織布マスクより小さい。

 昨年、1週間にわたって着けてみたが、呼気の湿気でマスクが縮み、鼻や口を覆えなくなり、耳も痛くなる。マスク不足はすぐ解消したので、アベノマスクはタンスの肥やしとなった。

 何かいい活用法はないか。4月中旬、ホームセンターでスプラウト(ブロッコリーの芽)の種を見つけた。説明欄には、キッチンペーパーを3、4枚重ねたら栽培できると書いてある。

 厚生労働省によると、アベノマスクは15枚のガーゼが重なった構造だ。これは、キッチンペーパーより保水力や通気性に優れているのでは。さっそく、水を入れた食品トレーにマスクを浸し、種をまいてみた。

 最初は、発芽を促すため新聞でトレーを遮光した。種まきから2日経過。多くの種が割れ、芽吹き始めた。反応が早い。

 3日経過。長さ2~3ミリほどの黄緑色の「もやし」が生え始めた。何か白カビみたいな物が…と思ったが、よく見ると綿毛のような根毛だった。まるで「草の根」で支持基盤を固める政治家のようだ。

 5日経過。双葉が見え、上に向かって伸び始めた。遮光用の新聞を取り除き、日当たりの良い窓際に置く。すると、黄色かった葉がどんどん緑色になっていく。

 9日経過。順調に成長を続けるスプラウト。毎朝、30ccほどの水をトレーに注ぐ。芽がどんどん吸水する中、夜になってもアベノマスクはしっとりとしており、抜群の保水力だ。

 15日経過。アベノマスクは、すっかりスプラウトの「森」に。耳に「カケ」るゴムがなければ、アベノマスクに植わっているとは気づかない。

 21日経過。草丈は5センチほどに成長し、トレーからはみ出してきた。そろそろ収穫しよう。しかし、その前にやっておきたいことがある。

 このままでもマスクとして機能するのか、着けてみた。青臭い香りが鼻をつく。…息苦しい。吸水したアベノマスクとスプラウトが通気を遮り、まともに呼吸ができない。

 そして、スプラウトがたっぷり水を吸い上げたため重い。しかし、アベノマスクのゴムは極めて優秀で、顔からマスクがずり下がることはない。

 近所のお友達を自宅前に招待し、「草を見る会」を開いてみた。マスクを着けると爆笑が起こり、さらに草が生えた。

 さあ、収穫だ。はさみで刈り取る。計29グラムを収穫できた。マヨネーズをつけて食べる。朝取りなので新鮮。シャキシャキとした食感がおいしい。

 最後の仕上げは、再びマスクとして使うことができるのか確認だ。マスク表面の根は簡単にはがせたが、ガーゼ内部を開いてみると、無数の根が張っていた。

 …みんな、アベノマスクの中枢に食い込んでたんやね。生きるって大変やな。

 1本1本、指先と毛抜きで取り除く。こうなると、15層のガーゼがかえってあだになる。こうした「しがらみ」の除去に計1時間50分を要したが、無事にアベノマスク本来の姿を取り戻し、再びマスクとして着けることができた。縦9・2センチ、横13・3センチのサイズも不変だった。

 結果的には、タンスに眠らせておくより、よっぽど有効活用できたのではないか。「草を見る会」では、近所の小学生も興味津々だった。社会性を帯びた理科教材として、文部科学省の推奨教材にできそうだ。

 本来の姿を取り戻したところで悪いが、マスクとしては使わないので再びタンスに眠ってもらった。さらなる有効活用法が思いついたら、再登場してもらおう。

 ちなみに、アベノマスクの調達・配布には税金約260億円が投入され、全国で約1億2千万枚が配られた。しかし、2021年5月現在、街中で見かけることはほぼない。皆様、アベノマスクを使っていますか?

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