俳優田村正和さんの訃報を受け、代表作のひとつである「古畑任三郎」シリーズがあらためて注目を集めています。「田村さんが演じる古畑の新作を見る」という夢は残念ながらもう叶いませんが、実は2年前に1人の古畑ファンが「私が今観たい古畑のキャスト考えたし、そこそこトリックとかディティールも考えたから、これでほぼ観たことになると思うな」と、旬の俳優を犯人役にした創作(妄想)エピソードをTwitterに投稿して話題になっていたのをご存知でしょうか。古畑ワールドを愛し、知り尽くした人にしか生み出せない珠玉のエピソードの数々が、2年の時を経て今また“発掘”され、多くの人に読まれています。
それは、例えばこんな感じ。
【満島ひかり「罪深き発明者」理系大学院生】
殺人のきっかけ→世紀の大発見をするも、仲間に論文を盗用される
名シーン→ラストの「古畑さん、私はまだ失敗してないですよね?」というエジソンの名言からの引用シーンは泣かせる
【長谷川博己「犯人はニュースキャスター」情報番組キャスター】
古畑がトリックを見破るポイント→非常に几帳面な性格で生放送出演時には曜日別でネクタイの色を変えているが、ネクタイをトリックで使用したために別の色のネクタイで出演したわずかなシーンを古畑に見つけられる
【マツコ・デラックス「動かざる犯罪者」占い師】
古畑とのやりとり→基本的に強気で古畑を「古畑ちゃん」と呼ぶ
名シーン→「古畑ちゃん、アタシ、この体よ?どうやって動くの?どうやって殺すのよ」という鬼気迫るマツコの演技
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誰も見たことはない。なぜなら古畑にこんな回は存在しないから。それなのに、何故かどのエピソードも確かに見たことがあるような気がする…!
この他にも、浜辺美波(地下アイドル)、菅田将暉(漫画家。小石川ちなみの息子)、菜々緒(通訳)、斎藤工(パーソナルトレーナー)、安藤サクラ(ゴミ屋敷に住む主婦)、田中圭(悪ノリ系YouTuber)、吉岡里帆(人気声優)、吉田鋼太郎(歴史小説家)、石田ゆり子(フードコーディネーター/結婚詐欺師)、星野源(東大卒塾講師)、沢尻エリカ(引退した元女優)、松坂桃李(No.1ホスト)、吉田羊(エステ会社社長)、高橋一生(仮想通貨で億万長者になった男)、大竹しのぶ(大物女漫才師)、市川海老蔵(本人役)、香川照之(都知事)、浅田真央(本人役)と、震えるほど絶妙なキャスティングで、各話のポイントを短く書いています。
犯行の動機や古畑がトリックを見抜くきっかけなども「確かにありそう!」と膝を打つものばかり。かと思えば、「主婦に大人気の斎藤工さんが痴情のもつれで殺してしまう」というやっつけ感のあるストレートな回もあって笑ってしまいます。2年前に投稿されると、「天才としか言えない妄想力」「めっちゃ観たいけど、もう観た気になってしまっている不思議な感覚。エア古畑」などと熱い反響を呼びました。
三谷幸喜の「クセ」を意識して書いた
投稿したヤスコ ッティーナさん(@okarinaaa)は、脚本家三谷幸喜さん特有の「当て書き」が古畑シリーズの大きな魅力だと思っているそうです。「明石家さんまさんが口の達者な弁護士を演じたり(「しゃべりすぎた男」)、そんなワクワクするキャスティングがたまりません」
それにしても、この「いかにもありそうなエピソード」をヤスコ ッティーナさんは一体どうやって思いついたのでしょうか。
「ミステリーについては全くの素人で、普段から創作をしているわけでもありません。『三谷さんならこの人をこう描くんじゃないか』と想像して、“三谷さんのクセ”をマネして書きました」
「科学的なトリックなんかは全く思いつきませんが、『古畑任三郎』ってそういう知識の部分で謎を解くんじゃなくて、人間の甘さや弱さ、それこそ『クセ』に焦点を当ててトリックを導き出していく手法(例えば、鈴木保奈美さんの『ニューヨークでの出来事』に出てくる今川焼のトリックなど)なので、そこが再現できてたら面白く読んでもらえるんじゃないかと考えました」
この投稿を通じて、たくさんの古畑ファンや田村さんのファンと交流ができたというヤスコッティーナさん。田村さんが亡くなられたことについては、「数年前からご年齢を理由に事実上の引退に入られていて、その、生涯、他人の偶像として存在する『俳優魂』が心から素敵だなと思っていました。と同時に、また田村さんで古畑任三郎の最新回を観たいと思って『妄想古畑』を書いたので、寂しい気持ちもあります」と悼みました。