電車にはねられ下半身不随 家族の愛情をうけ元野犬のトラウマ解放、車椅子で豪快に疾走!

岡部 充代 岡部 充代

 車椅子を装着した犬を見たとき、あなたなら何と声を掛けますか?「足、どうしたの?」「かわいそうね」そんなところでしょうか。「楽しそうにお散歩してるね」とはなかなか言えないし、そういう発想すらないかもしれません。でも、横浜に暮らすマイロくんはお散歩が大好き!走るのが大好き!動画を見ていただけば分かる通り、かなりのスピードで走れるのです。

 マイロくんは推定7歳の元野犬。熊本で捕獲され保健所に収容されましたが、縁あって関東のアニマルシェルターへやって来ました。ところが2019年秋に預かりボランティアさん宅から脱走して電車にはねられ、奇跡的に命は助かったものの下半身不随の大ケガを負ってしまいます。シェルターに戻ってからはずっと車椅子生活。マイロくんを家族に迎えたケネディ亜梨さんも、そんなふうに走れるとは思っていなかったようです。

「アニマルコミュニケーション(テレパシーを使って動物たちと会話し、心を落ち着かせたり行動の理由や望みなどを聞く行為)で何が好きか聞いてみると、走るのが好きだと。車椅子で走るという概念が私にはなかったのですが、走らせてみるとめちゃくちゃ速くて。今では同居犬のブルーノと追いかけっこして遊んでいます。車椅子を改良して長距離も歩けるようになったので、高尾山にも登ったんですよ。杖をついたおばあさんがマイロを見て『私も頑張らなきゃ』って。たくさんの人が声を掛けてくださり楽しい登山でした」(亜梨さん)

 

 マイロくんがケネディ家にやってきたのは2020年4月。最初は預かりボランティアのつもりでした。

「私がトリマーとしてボランティア登録しているシェルターにマイロがいたのですが、コロナが流行りだしてお散歩ボランティアさんが来られなくなったから、預かれる家庭を募集していたんです。小型犬ならうちでもと思い電話したら、残っていたのはシェパードとマイロの2匹だけ。マイロのことはインスタで知っていました。犬の介護経験者のほうがいいのかなと思ったのですが、実際に会ってみると私にもできる気がして、家族と話し合った上で翌日、迎えに行きました」(亜梨さん)

 このときすでに、ご家族は「絶対、預かるだけじゃないと思っていた」そうです。そして、その通りになりました。夏に家族旅行に出掛けたときのこと。マイロくんはシェルターに戻っていたのですが、迎えに行くと全身で喜びを表現してくれたのだとか。「私と息子に甘噛みをして、ジャンプするんじゃないかと思うくらい喜んでくれたんです」。亜梨さんが「この子は私たちの家族になるべき」と確信した瞬間でした。

「野犬時代のトラウマから解放してあげるには、シェルターより家庭でたっぷりの愛情を注いであげるほうがいいと思うんです。マイロを飼ったらもう預かりボランティアはできないのでその葛藤はありましたが、あの姿を見るとね。うちに来たとき『仙人みたいな子だな』と思ったんです。すべてを悟っているような。その子があんなに喜んでくれたんですから」(亜梨さん)

 マイロくんは一日3回のオムツ交換が必要です。最初はオムツを噛んで外してしまったり、取り替えている間に排泄したり…コロナでオンライン授業だった子供たちに手伝ってもらい何とかやっていましたが、通常授業に戻れば一人でやらなければなりません。亜梨さんは試行錯誤の末、百均グッズなどを使って対応できるよう工夫したそうです。

「多少、手間は掛かりますが、それ以上のものを与えてくれています。人間も動物も必ず老いる。自分たちもいつか誰かの手を借りる日が来るかもしれない。そういうのをマイロが見せてくれているんです。子供たちもよく手伝ってくれますし、家族に迎えて本当によかったと思いますね」(亜梨さん)

 ご家族だけではありません。マイロくんはお散歩で会う人たちにも“癒し”や“気づき”を与えてくれているそうです。

「不思議なんですけど、公園で一人ベンチに座っている人なんかによく近づいて行くんです。そうすると、その人が一気に笑顔になったり。『かわいそうね』と声を掛けてくださる方には、マイロがどんなに走るのが好きかをお話しして、『かわいそうとは思わなくて大丈夫なんですよ』と言うと、皆さん笑顔になってくれます。車椅子を見て『うちの子が老犬になったらこんなお散歩の仕方もあるのね』とおっしゃる方もいたり…そういうのがマイロの使命なのかなと思いますね」(亜梨さん)

 人間も動物も「ハンディを持ってるから大変、かわいそう」というのは先入観に過ぎないのかもしれません。

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