「ラテロマヨキーン」という犬種を聞いたことがあるでしょうか。スペイン・マジョルカ島原産で日本ではほぼお目に掛かれません。そんな珍しいワンちゃんが横浜にいるのですが、家族と出会ったのはドイツ、保護されたのはスペインだと言います。
「主人の仕事の関係でドイツにいたとき、保護団体でボランティアをしている友人から『こんな子がいるよ』と紹介されたんです。犬を飼う予定はなかったのですが、フォスターファミリー(保護動物を一時的に預かりお世話する家族)のところで会ったブルーノは絶望感に満ちたすごく悲しい目をしていて…帰りの車の中で涙が止まりませんでした」
ブルーノ君との出会いを、里親になったケネディ亜梨さんはそう話してくれました。
家族4人でドイツに渡り、期間限定のヨーロッパ生活を楽しみたいと考えていた頃。日本と違い、ドイツではデパートもレストランも大概の場所は犬同伴で行けますが、それでも暮らしていく中で何らかの制約は生まれます。亜梨さんはご主人と約2週間話し合い、そして決断しました。
「私は感情が先行していましたが(苦笑)、主人は冷静に『旅行のときはどうするか』『長時間の留守はできなくなるけど大丈夫か』といった気になる点を挙げてくれ、2人で1つずつ解決していきました。たぶん私も主人もブルーノの目を見たときに答えは出ていたんです。ただ、迎えるにあたって心の準備をするのに時間が必要だっただけで」(亜梨さん)
ブルーノ君は大人気で約10組の里親希望者が現れたそうですが、その中からケネディ家が選ばれ4人と1匹の暮らしが始まりました。
どこへ行くのもブルーノ君と一緒。もともとは夫婦そろって「シティ派」だったそうですが、ブルーノ君が来てからは森や湖へ出掛けることが多くなり、子供たちも含め「アウトドア派」に。2週間のバカンスのときだけは犬のホテルに預けたそうですが、ケージに入れられることはなくストレスフリーの環境なのだとか。
「犬にあわせていろんなサイズ、いろんな形のベッドが用意されていて、犬たちは起きた瞬間から遊んでいるようです。広いお庭もあって、自由気ままに日向ぼっこをしたり、お昼寝したり。ブルーノにとってもバカンスだったと思います。預けるときは鳴くのですが、その後の様子を尋ねると、『あなたたちの匂いがなくなると楽しそうに遊んでるわよ』って(笑)」(亜梨さん)
5年4か月ドイツで暮らし、日本にやってきたブルーノ君。大きな違いはやはり「ペット同伴OK」の場所が少ないことで、必然的にお留守番が増えました。また、走るのが大好きで「ドッグレースの犬くらい速く走る」(亜梨さん)犬種なのに、ノーリードで走れる場所が限られるため「ストレスがたまるのか、日本に来て吠えることが多くなった」と亜梨さんは少し心配しています。カルチャーショックを受けたことも少なくないそうで、例えば「ソフトケージに入れていれば同伴OK」と言われたレストランでは…。
「足元に置いて食事をしていたら、スタッフに『ファスナーを閉めてください』と言われたんです。ブルーノは吠えてもいなかったし、出てくることもなかったのに。理由を尋ねたら『ほかのお客様にご迷惑なので』と。『迷惑』という言葉がショックでしたね。もちろん犬が苦手な方もいらっしゃるでしょうが、ドイツでは席を離すことで対応していましたし、その代わり目に余る行為があれば、お店側も毅然とした態度に出ます。ブルーノもまだ慣れない頃、お店を出なければならないことがあったのですが、『ブルーノのためにもちゃんとトレーニングしよう』と思えた出来事でした」(亜梨さん)
来日して2年。ドイツとの環境の違いにまだ戸惑いもあるかもしれませんが、ブルーノ君と亜梨さんは前世から繋がりがあったそうですから、きっと今の暮らしを受け入れてくれているでしょう。亜梨さんに前世の話をしてくれたのは、動物と話ができるアニマルコミュニケーターさんでした。
「私とブルーノは前世で出会っていて、私に今世の使命を果たさせるため、協力するためにうちに来てくれたみたいです。前世はドーベルマンだったけど、今の時代、その大きさだと飼う人が限られるから小さくなって生まれてきたと。スペインでは女性に飼われていたらしいのですが、その家では自分のキャラクターを生かせないから家出して、1週間くらいさまよって捕獲された瞬間、『これでやっとマミー(亜梨さんのこと)に会える』と確信したそうですよ」(亜梨さん)
亜梨さんは保護施設などでボランティアができるようにとトリマーの資格を取得し、今はアニマルコミュニケーションを学んでいます。動物と人が幸せに共存できる社会のために――それが亜梨さんの今世の使命なのでしょうか。