わずか140秒の映像作品に「こんなSFが見たかった!」「すごいアイデア」と鳴り止まぬ反響 監督と主演俳優に緊急インタビュー

黒川 裕生 黒川 裕生

わずか140秒の映像作品が今、文明崩壊後の世界を描いた「ポストアポカリプスもの」の傑作だと多くのSFファン、映画ファンを唸らせている。自撮りの男性1人しか登場しない、パッと見はかなり地味な作品。YouTubeに公開されてから1カ月ほどは再生数も数百回止まりとほぼ無風状態だったが、映像コンテストでグランプリを受賞したことを機に“発掘”されて注目度が一気に上昇し、ここ数日だけで42万回を突破した。現在もSNSを中心に「これだよ!これが見たかった!」「タイトルの意味がわかったとき涙が出た」「日本が舞台の実写でポストアポカリプスは不可能だと思っていたが、このアプローチは盲点」といった絶賛の声が飛び交っており、思いがけぬ新たなマスターピースの誕生に多くの人が興奮。一体、どんな人たちが作ったのか。監督の針谷大吾さんと小林洋介さん、主演の橋口勇輝さんに取材した。

満場一致でグランプリ「viewers:1」とは

東宝とコンテンツ制作会社AlphaBoatによるオーディションプロジェクト「GEMSTONE」が実施した「リモートフィルムコンテスト」に出品され、満場一致でグランプリに選ばれた作品「viewers:1」。何らかの理由で人類が滅亡したらしい世界で、1人の男性が「どうもどうも!」と存在しない視聴者に向けて明るく映像を配信しながら海を目指す。空には「基地局ドローン」が飛び、遠くでは巨大なロボットのような物体が不穏なオーラを漂わせて闊歩。崩壊した街の所々には人がいた痕跡もあるが、誰とも出会えず、男性は孤独に押し潰されそうになっていく――。

極めてミニマルな作りながら奥行きのある世界観を巧みに構築した上で、あっと驚く仕掛けをラストに用意。審査員からは「リモートという定義の中で“こう来るか!”と世界観に驚かされました。リモートでありながら、あえて一人撮影、ロケに挑戦する試みも面白かったですし、そこにVFXを加えてその世界を表現するアイデアも力強かった」などと賞賛された。

監督2人は早稲田大の映研出身

監督、脚本、編集を務めた針谷さんと小林さんは早稲田大学の映画研究会出身で、学生時代から共同で作品を制作。卒業後はそれぞれテレビ番組やMV、広告を作る仕事をしながら、精力的に自主制作も続けている。

――作品に仕上げるまでにどのような試行錯誤がありましたか。

小林さん「リモートといえばzoom画面というイメージがあったので、あえてそこを外してみました。全編屋外ロケ→外で一人きり、の自然な設定…→世界を滅ぼしておくかな、と……最後のワンステップに飛躍がある気がしますが(笑)その前日に終末系映画の古典『渚にて』(1959年)を観たのが大きい気がします」

「また、リモートでのやりとりはあくまで対面することの代わりでしかない…という話にしたかったので、企画時点でオチは決まっていました」

針谷さん「作品中、人物込みのカットは千葉県で、主観視点のカットの半分以上は香川県でリモート撮影しています」

「監督2人の共通の友人が香川に住んでおり、一昨年に男3人、2泊3日で香川の変な風景を見て回る旅をしました。その時に下から見た瀬戸大橋のSF感が忘れられず、『いつか香川ロケしたいね』と話していたところに今回の企画が立ち上がり、 『香川の友人に動画素材を送ってもらえば良いのでは』と思い立ったことで作品の方向性が決まりました」

予想外の大反響「嬉しいけど怯えている」

――YouTubeでは12月下旬に公開しておられたようですが、Twitterの投稿などをきっかけにここ数日で一気に再生数が跳ね上がっています。また、多くの人が作品を見た興奮を相次いで投稿しておられます。この状況についてどのように受け止めていますか?

2人「実は、コンテストの一次通過作品全てが12月下旬に公開されていて、受賞作が発表されたのは数日前だったので、再生数が伸びていないのも自然かなとは思っていました。ネタもニッチなので元々そんなに広がらないと踏んでいたところ、突然起こったSNS拡散のスピードと規模感には正直怯えています」

「ですが、こんなに多くの人に見てもらえ、リアクションも見えるという体験は初めてで、シンプルに嬉しいです」

主演俳優も学生時代からの仲間

主演の橋口さんも、実は同じ早稲田大学の映研出身。劇団「ブルドッキングヘッドロック」所属の俳優として活動しており、学年は違うが映研には小林さん、針谷さんと同時期に在籍していたこともあるという。3人は卒業後も共に作品作りを続けており、「viewers:1」は3人で手掛けた作品としては3本目になる。

――監督から作品の内容を聞いたときはどう思いましたか?

「お二人の好きなものが詰め込まれた作品だったので、企画をいただいたときはそれだけで幸せでした。ただ『リモートフィルムコンテストへの出品を目標として制作します』と言われて台本を開いたら、1行目に『眺めのいい尾根』(で撮影)と書いてあって、ん?と思いました」

――1人で演じて1人で撮影するという形ですが、難しかったこと、逆に面白かったことはどんなところですか?

「今回は企画の条件上、現場では監督と距離を置いて撮影したので基本的にひとりぼっちの撮影でした。そのため、zoomでのリハーサルとLINE通話での画角チェックをかなり入念に行いました。リハーサル時、画面越しですがお二人がとても楽しんでくれていたので、何の不安もなくやり切れました」

「『誰かが見てくれていると信じる事』と『本当はひとりぼっち』という環境が作品の設定と微かにリンクしていていたので、それを増幅させて想像しながら演じられたのはラッキーだったと思います」

「見てほしい」の連鎖、ただただ感謝

――再生数がぐんぐん伸びている現状について、主演としてどう感じていますか?

「見て頂いた皆さまに、ただただ感謝しています。ある人の『見てほしい』という投稿から、その連鎖がここまで広がりました。学生の頃から、先輩である監督2人が大好きで、もっと言うと僕は針谷さんの作った映画を見て映画研究会に入部しました。僕は、僕の好きな人の面白い部分を届けたくて俳優をしています。その信念のもと、コツコツ活動してきた結果、お二人の役に立てたことが本当に嬉しいです」

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