2021.01.08(Fri)

「毎日の献立、もうイヤ！」　そんなあなたを猫まんまが救う

長年の食の論争テーマである「シチューをご飯にかけるのはありかなしか」。肯定派を推すべく、重版連発の出版社ライツ社（兵庫県明石市）が「なんにも考えたくない日はスープかけごはんで、いいんじゃない？」を刊行した。出版のきっかけは、保育園でみそ汁かけご飯を食べていた編集者の息子（５歳）にかけられた「お行儀が悪いからやめようね」の一言。コロナ禍で家族が食卓を囲む機会が増えた→でも何品も作るのは大変→台所に立つ人が疲れる→あしたの献立どうしよう…という負のスパイラルをぶっ壊す救世主こそ、スープかけ…いやこう呼ぼう、猫まんまだ！

コンビニチェーンなどが力を入れる注目の「ご飯にかけるお総菜」。冒頭のテーマについても、ハウス食品がご飯にかける専用の「シチューオンライス」をリリースしている。そんな中、「仕事で帰りが遅くなり、作る気力がわかない」といった悩みを解消するのがスープかけごはんだ。

「確かに保育園の先生の言うことはわかります。でも、猫まんまにすることで野菜もごはんも食べられるのだからいいじゃないかいう気持ちも芽生えました」。園の出来事を聞いた編集者が熱く語りかけたのは、「スープの第一人者」である料理研究家の有賀薫さん。そこから生まれたのが同書だ。鍋一つで作ったスープをご飯にかける超簡単レシピ集で８０品を網羅。野菜がたくさん食べられる▽とにかく白米に合うごちそうスープ▽時間がなくてもパパッと作れる▽夜遅くても罪悪感ないヘルシーレシピ▽世界の名作スープをごはんにかけてみよう▽味噌汁の可能性を広げる一杯の６章から成る。著者の有賀さんに聞いた。

―毎朝スープづくりを続けていると聞きました。

「２０１１年の年末からです。高3の息子は朝が弱く、受験もあって私はやきもきしていました。クリスマス翌日、使い残しのマッシュルームで作ったスープを持って部屋に行くと、むくりと起きました。これはいいかも、と翌朝もスープを作るとすんなり起床。１０日ほど続けるうちすっかり早起き体質になりました」

「こうなると、験担ぎもあってスープ作りはやめられず、ＳＮＳにも毎日アップしました。１カ月も続くと話題になり、１年後に開いたスープ写真の個展をきっかけで、お仕事を受けるようになりました」

―ライツ社の編集者の体験談を聞いて。

「スープ作家として仕事をはじめて数年、レシピではなく食のスタイルを根本から変えないと、料理を担い食卓を預かる人の大変さは軽減されないと感じています。世界中で庶民の食事の中心となってきた主食(炭水化物)入りスープは一つの方法と思います。編集者から息子さんの話を聞いたとき、世間一般の食の倫理観が妨げとなっているのなら、もう少し強いメッセージを出さないといけないな、と」

―表紙の「『ねこまんま』全面肯定！」はその現れですか。

「ねこまんまが行儀が悪いことはもちろん知っています。作ったシチューやスープをいきなりごはんにかけて食べてほしくないという人もいるでしょう。汁かけ飯への拒否反応が一定ある以上、『行儀がよくないよ』と教えるのは普通の感覚です。本来、家庭の食卓は自由さとゆるさがある程度許されることが理想ですが、長年の習慣を変えることは難しい。だからこそ、スープばかり研究している人間が、こういう食べ方のスタイルもありですよ、と、最初からかける前提のレシピを出すことで、ねこまんまを再定義するような動きが起こるといいなと思います。汁かけ飯ではなくスープかけごはんとしているのには、そういう意味もあります。この本には味噌汁の章もありますが、皆さんが思うねこまんまとはちょっと違うと思います」

―料理初心者の男性へのおすすめは。

「簡単で材料が手に入りやすく、男性が喜びそうな３品を紹介します。（１）スパムとピーマンのスープかけごはんは、ジャンキーイメージのスパムを、ピーマンと食べることでヘルシーにさっぱりいただけます。（２）サラダチキンの冷製麦茶漬けは、火も包丁も使わず作れる超簡単レシピで、もちろん温かくしてもＯＫです。（３）モツ入り味噌汁は、ねこまんまもこれぐらい具だくさんなら立派な一品です」

新型コロナ以前から、従来の家庭料理や家事は、担う人の負担が大きすぎることが指摘されていた。「コロナで家庭の中が大きく動いた今、変わりどきだと思うのです」と話す有賀さん宅のオリジナルキッチンは、食卓の中央にＩＨコンロを埋め込んでいる。お昼は何か焼いてごはんと味噌汁、コンロで作ったスープかけごはんにするなどとにかく簡単。食卓下に設置した食洗器に食器を突っ込むだけでほぼ終わりという負担軽減を追求したものだ。「スープかけごはんは単なるレシピではなく、新しい生活様式だと自分の体験からも感じることができました」