10月5日、コロナを扱ったある本が出版された。
その名も『コロナマニア 「ウイルス以外のコロナ」一大コレクション』(パブリブ)。
コロナウイルス自体ではなく元々「コロナ」という名前を持っていた企業、人物、商品、作品などを918種を取り上げ、それらの受けた風評被害についても紹介するという非常にユニークかつマニアックな内容の本だ。
見出しを見るだけでも「フードショップコロナ試食記」、「コロナ食堂・コロナホテルインタビュー」、「俺コロナ事件簿」、「コロナ便乗ソング」などその手の本が好きな方にはゾクゾクくるパワーワードが目白押し…。この本はいったいどのような経緯で執筆されたのだろうか?著者の岩田宇伯さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):今回、コロナの風評被害をテーマにした本を執筆されようとしたきっかけをお聞かせください
岩田:2月くらいですかね。ちょうどコロナの深刻さがメディアで騒がれだした頃に、たまたま愛知県西部に用事があって出かけたところ「喫茶コロナ」という古い喫茶店を見つけたんです。「風評被害受けてないかな?」と店先をのぞくと「店主病気のためしばらく休業いたします」という張り紙があって、別にコロナウイルスに罹ったわけではないと思うんですけど長らく休んでいるような雰囲気で印象に残りました。これが元々「コロナ」という名前だったものに興味を持つきっかけになったんです。
それで「コロナワールド」とか、いろんな「元々コロナ」を見に行ってTwitterで紹介していると、それを見た懇意にしている名古屋の書店店主から「イベントをやりたい」と声がかかりました。3月後半で志村けんさんが亡くなった頃だったんですけど、店主と「この空気感は嫌だよね。カウンターイベントやりたいですよね」って盛り上がって、いろんな「元々コロナ」を集めて紹介するイベントを開催しました。
それがお客さんにウケたかどうかはわからないんですけど、今度は前作の「中国抗日ドラマ読本」を出してくれた出版社の方から「これまとめましょう」と声がかかり執筆に至りました。
中将:918種類という膨大な数の「元々コロナ」について紹介されているということですが、どのようにその存在を調べられたのでしょうか?
岩田:これには内訳があるんですけど、約600種類が店名や商品名などの「元々コロナ」で、残りの約300種類はコロナ禍で発生したコロナソングやコロナキャンペーンソング等です。
これらは電話帳のイエローページやトリップアドバイザー、音楽配信サイト、各種データベースサイトなどを検索して探していきました。物件名でも「コロナ荘」、「コロナハイツ」というようなアパート、マンションがいろいろあるようですが、不動産検索サイトは日本中の物件を一気に検索できる仕様にはなっていないので、さすがに全部は網羅できませんでした。
中将:本作には「俺コロナ事件簿」というコラムも収録されていますが、愛知県では自分がコロナにかかっていると言うことで嫌がらせする「俺コロナ事件」が特に多かったということですね。なぜ愛知県でこういった事件が頻発するのでしょうか?
岩田:愛知県では5月くらいに「俺コロナ事件」が頻発しました。本ではマップや一覧表にまとめてありますが、1日2件逮捕者が出ることもありました。なぜ東京や大阪を差し置いて愛知でこんな事件が起こったかということについてですが、これは2つ理由があるんじゃないかと考えています。
一つは3月に蒲郡市のフィリピンパブで起こった事件が大々的に報道された結果、事態を重く見た愛知県警が取り締まりの基準を高くしたのではないかということ。
もう一つは愛知県の県民性です。大阪みたいに言葉のやり取りを面白がる文化、習慣はあまりないので「俺コロナ」と言われると真に受けてすぐ通報してしまうということが起こっているのではないかと。
中将:蒲郡市で起こった事件は特にインパクトがありましたよね…。県民性の違いも興味深いところです。
岩田さんは本作を執筆するにあたりさまざまな取材をされたようですが、特に印象深かったエピソードをお聞かせください。
岩田:「風評被害も風評被害、デマを流された」というコラムがあるのですが、これは私の近所で起こった事件の話なんですよ。
まず4月に瀬戸市の加藤スポーツというお店がデマ被害に遭いました。店主が元々市会議員をされていて、愛知万博(※2005年日本国際博覧会)の時には反対派の急先鋒だった方なんですが「あの店で感染者が出た」とデマを流されてしまい、自腹で新聞に折り込みチラシを入れて否定せざるを得ない事態に追い込まれました。
しばらくして今度はその近くのコメダ珈琲店もデマを流されたのですが、たまたまそのお店を訪れた高須クリニックの高須克弥さんが「根拠のないデマ・噂話に振り回されません様にお願いします」という張り紙を見て激励するツイートを投稿され大きな話題になりました。
これらの事件があった頃にはもう執筆にとりかかっていたので「これは外せないな」と思い取材させていただきました。コロナ関連ではいろんな事件が起こっていますが、やはり自分の身近で起こった事件は特に印象深いですね。
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▽岩田宇伯プロフィール
1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。
2020年10月『コロナマニア 「ウイルス以外のコロナ」一大コレクション』を上梓。
公式Twitterアカウント https://twitter.com/dqnfr
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単なる伝染病という枠を超えて、我々の社会全体に大きな影響を与えた新型コロナウイルス。このウィズコロナ時代の社会風俗を記録し、研究する上でこの『コロナマニア 「ウイルス以外のコロナ」一大コレクション』は大きな意義がありそうだ。
同作は10月6日から書店に並ぶ予定だということ。全304ページの内、カラーが128ページ、四六版並製で2000円(税別)という豪華かつリーズナブルすぎる価格設定なので、ぜひとも多くの方に手に取っていただき、少しでも元が取れて欲しいと願う次第だ。