缶ビールを飲む際、飲み口の下をへこませると美味しくなるという説がSNS上で話題になっている。
缶をへこませることと美味しさの因果関係についてSNS上では
「炭酸が無駄に抜けること無く注ぎ口から流れ出る」
「グラスに注いだ時も無駄な泡が立たない」
「飲み口がフラットになるので勢いよく口に入り炭酸も抜け辛いのでは」
などさまざまな意見が飛び交っているのだが、缶をへこませることでビールにいったいどのような変化が起こるというのだろうか?神戸市の醸造酒専門バー「スタンドねこしゃん」のご協力を得て検証してみた。
今回用意した缶ビールは日本を代表するビールということで「アサヒスーパードライ」、「ヱビスビール」の2種。それぞれをそのままと、缶をへこませた状態で飲み比べ、またグラスに注いだ状態でも飲み比べてみた。飲み手は「スタンドねこしゃん」のマスター。
まずはアサヒスーパードライ。アサヒスーパードライは1987年に誕生して以来、いわゆるドライビールの代表格として人気を集めている。ビール特有の苦みを抑え、スッキリした強炭酸で辛口の味わいが特徴だ。
【香りの比較】
「そのままの方はアルミ臭とアルコール特有の香りを感じます。この香りは少しネガティブに感じる人が多いかもしれません。一方、へこませた方はその香りが少し抜けて控えめになっている気がします」
【缶で飲んだ味の比較】
「そのままの方は辛口で苦みは控えめでキレがいい"これぞドライビール"という感じですね。一方、へこませた方はまろやかな苦みになりキレは変わらずあります。のど越しについては差を感じませんでした。メーカーの意図する味づくりとは変わってしまうのかもしれませんが、僕はへこませたほうが飲みやすいと思います」
【グラスで飲んだ味の比較】
「そのままの方はグラスに注いだほうが圧倒的に美味しいですね。苦み成分が抑え込まれて最終的なキレの印象が強調されます。一方、へこませた方は味の輪郭はよりシャープに感じますが、これはへこませることで気が抜けた結果かもしれません。香りは変わりません」
【総評】
「アサヒスーパードライの魅力を最大限味わうなら、缶はそのままでグラスに注いで飲むのが一番です。もしグラスが無い場合はへこませて飲むのも選択肢の一つとしていいかもしれませんが、へこませると泡が早く無くなってしまうので、ゆっくり飲むのには向いていません」
◇ ◇
お次はヱビスビール。ヱビスビールは1890年に誕生して以来、日本を代表するドイツ流本格ビールとして人気を集めている。麦芽100%ゆえのガツンとした苦みと豊かな味わいが特徴だ。
【香りの比較】
「そのままの方は上品な麦とホップの香りを感じます。一方、へこませた方はそれが薄まってしまってますね。アサヒスーパードライの場合はへこませることでネガティブな香りが軽減しましたが、ヱビスビールはへこませないほうがいいと思います」
【缶で飲んだ味の比較】
「そのままの方は飲みはじめから喉を通るまで、バランス良くくっきりと鮮明な味わいです。高低差というか奥行きを感じる味づくりですね。一方、へこませたほうはその印象が少し平坦になってしまいます。のど越しは変わりませんでした。ヱビスビールの場合、缶をへこませることによって得られる魅力は無いのではないでしょうか」
【グラスで飲んだ味の比較】
「そのままの方は缶の時ほど奥行きは感じませんが口当たりとしては飲みやすくなります。よく出来たビールだと感じます。一方、へこませた方はさらに気が抜けたようになってしまいますね」
【総評】
「ヱビスビールは缶でもグラスでも別の魅力があっていいビールだと思いますが、缶をへこませる必要性は感じませんでした。あえてへこませるなら、そのまま缶で飲んだほうがいいです。ヱビスビールは非常に泡残りがいいので、ゆっくり飲むのにも向いていると思います」
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『スタンドねこしゃん』
クラフト麦酒、日本酒、ヴァン・ナチュールを軸とした醸造酒専門店
所在地:兵庫県神戸市兵庫区水木通1‐4‐5
営業日、営業時間については公式Twitterアカウントを参照
https://twitter.com/standnekobe2016
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どちらのビールも缶をへこませた瞬間、泡立ちが起こった。へこませることによって炭酸や香りの成分が少し抜けるのだが、へこませた方が美味しいと言う人は、その変化を飲みやすくなったと感じているのだろう。
しかし、今回試したアサヒスーパードライとヱビスビールは個性は違えどどちらも良く出来たビール。へこませることによって得られる魅力はあまり大きなものではなく、そもそもの魅力を損なってしまうこともあるようだ。今回は用意がなかったため検証できなかったが、もっと値段の安いビールやビール風飲料で試した方が、嫌な味や香りの個性がうすまって、缶をへこませるという行為の本領が発揮できるのかもしれない。
ともあれ専門家と共にビールを真剣に飲み比べるのは酒飲みにの僕にとって非常に愉しい体験だった。嗜好品はこだわればこだわるほど良いものだ。読者のみなさんも今度缶ビールを飲むときはぜひ飲み口の下をへこませて、味の変化を楽しんでみてはいかがだろうか。