改正動物愛護法が6月から施行される。この改正のプロセスに深くかかわってきた公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」の理事長で女優の杉本彩さんに話を聞いた。
杉本さんは20代から猫の保護活動を始め、2014年にEvaを立ち上げた。今年、これまでの活動内容や山積する問題をつづった著書「動物たちの悲鳴が聞こえる」(ワニブックス)を出版。ネット上にはびこる動物虐待の実態、ペットショップの裏側にある悲劇、テレビで視聴率を稼ぐ道具とされている動物たち…。タブーとされてきた部分も含め、「かわいい」の向こう側に巣食う闇に深く切り込んだ。その内容は多岐にわたるが、ここでは、今回の法改正で何が変わり、何が変わらなかったのか…に焦点を当てる。
変わった点の1つが動物虐待の厳罰化。動物殺傷は、現行の「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」となる。執行猶予が付く場合は3年以下の懲役なので、4年以上の判決が出れば実刑となる。
改正法に動き出したきっかけは2017年に埼玉県で起きた、元税理士の男性による猫虐待事件だった。捕獲機に閉じ込めた猫に熱湯を浴びせ、ガスバーナーで火あぶりにするなどして9匹を殺害、4匹に重傷を負わせ、その映像をネットに投稿していたという事件だ。判決は懲役1年10月、執行猶予4年だった。
杉本さんは当サイトの取材に対して「飼い主がいる場合は器物損壊罪で扱われていましたが、埼玉の事件のように飼い主のいない猫を捕獲して虐待するパターンは動物愛護法で裁かれ、それは器物損壊罪よりも刑が軽い。どんな残酷なことをしても実刑を食らった人は1人もいなかった」と解説する。
もう1点、注目点を挙げると、生後56日(8週間)以下の犬や猫の販売禁止。これを「8週齢規制」という。見た目がかわいい子犬や子猫をできるだけ幼い段階で買いたい消費者と販売したい業者がある。だが、杉本は「免疫力の低い幼齢期に母犬から離された子犬は感染症にかかりやすく、また親きょうだいから社会性を身に着けることができず、問題行動を起こしやすい」と危惧。ある程度、親離れのできる生後8週までは販売をさせないという改正に漕ぎ着けた。
ところが、成立直前になって「秋田犬保存会」(会長=日本維新の会・遠藤敬衆院議員)と「日本犬保存会」(会長=自民党・岸信夫衆院議員)の動きによって「日本犬」は対象外となり、従来通りの生後49日を超えれば販売可能とされた。そこは、変わらなかった。
杉本さんは「幼齢期の貴重な1週間」が失われた結果に失望した。「議員立法の弱点をまざまざと見せられました。ただ、今後も注視して、不幸な事件が起きたときや違和感のある時は声を挙げていかなければならないと思っています」と思いを吐露する。
杉本さんは現在、京都で猫7匹、犬2匹と暮らす。そして、それ以前にも多くの「家族」を看取ってきた。「子どもの頃から家族の一員である動物に接する中で傷ついたり、泣いたり、喜んだり、さまざまな感情を味わってきました」。だからこそ、表面的な「かわいい」の裏側で動物の命が守られていない現実に向き合う。今後も啓発活動を続けていく。