小津映画に隠された音楽のマジックとは 担当者・斎藤高順氏の次男が証言

北村 泰介 北村 泰介

 世界の映画史上で最高級の評価を得ている小津安二郎監督。生誕115年の今年、高画質の4Kデジタル修復版としてよみがえった作品を上映する企画「小津4K」が都内で開催され、6月中は23日に香川京子(東京物語)、24日に有馬稲子(東京暮色)、30日に若尾文子(浮草)という3人の大女優が角川シネマ新宿で出演作の上映後に登壇する。この機会に、あまり語られてこなかった小津映画の音楽に焦点を当ててみた。(一部敬称略)

 英国映画協会が発行する「サイト&サウンド誌」の「映画監督が選ぶベスト映画」(2012年版)で世界の映画史上1位となった小津の代表作「東京物語」(1953年)。同作から遺作の「秋刀魚の味」(62年)まで7作の音楽を担当した斎藤高順(たかのぶ)氏の次男・斎藤民夫氏は「小津監督から『外から聞こえてくるみたいな感じの音楽にして欲しい』と要求されたようです」という。

 例えば高順氏が担当した「東京暮色」(57年)で、笠智衆が長女(原節子)と別居する夫(信欣三)の家を訪ね、待たされている間に近所からピアノの音色がかすかに聞こえてくる場面がある。住宅街に流れる子どものピアノ練習を思わせる日常の音だが、民夫氏に「あれもうちの親父がピアノを弾いているんです」と明かされて驚いた。「外から聞こえてくるような音楽を小津監督は『お天気のいい音楽』と言い表しました」と説明した。

 「東京暮色」では、有馬稲子が自身を妊娠させた学生を中華料理店で待つシーンで沖縄民謡「安里屋ユンタ」が近所から繰り返し流れてくる。細野晴臣、坂本龍一、夏川りみらが同曲をカバーするなど、沖縄民謡がポピュラーになる過程で聴く機会も増えたが、当時の東京でそれほど一般的な曲だったのか。説明は一切なく、「安里屋ユンタ」は反復される。音楽に意味や説明を求めることを拒否しているかのように。

 民夫氏は「東京物語では東山千栄子が原節子のアパートを訪ね、夜しみじみと語り合うシーンに流れる『夜想曲』の音が、聞こえるか聞こえないかくらいに小さい。小津監督は映像に音楽が合い過ぎたのが気に入らなかったらしい。悲しい場面に悲しい曲では説明的になりすぎてしまう。音楽が意味を持って、映像に影響を与えることが嫌だったみたいですね」と指摘した。

 民夫氏が主宰する「サイトウ・メモリアルアンサンブル」の演奏と元NHKアナウンサー・中村昇氏の朗読で小津作品の魅力を味わうコンサートが23日に都内の「エスパス・ビブリオ」で開催される。民夫氏は「親父が書いた小津作品のピアノ譜が15年に自宅で見つかり、楽譜出版とCD化の企画が持ち上がりました。欧州在住の日本人ピアニスト・青木美樹さんの演奏によるCDがドイツのレーベから出る予定です。今後、欧州を中心に注目を集め始めるのでは」と期待を込めた。

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