連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK総合)第6週「ふたり、北へ」では、珠(石橋静河)と保(金子大地)の札幌での新生活が始まった。東京を離れることを決意した矢先に子どもを早産で喪ってしまった珠の心は、札幌で出会った人々のたくましさに触発されて、徐々に癒されていく。
11月5日に放送された第29回では、札幌移住と保の就職の世話をしてくれた親戚の正吾(三宅弘城)の妻・浪江(杉田かおる)の足袋のシーンが印象的だった。珠がその足袋に目を留めると浪江は、
「汚れては洗って、穴が空いては繕って、履き続けてるのよ。もう13年にはなるかねえ。昔は、お金もない、ものもない土地だったからね。破れたからって『はい次の足袋』ってわけにはいかないでしょう」
と言う。
宇野千代も感激した「十三年も穿いた足袋」
北海道の人の始末と倹約の知恵、生きる強さが詰まったこのエピソード。珠のモデルとなった宇野千代の著書『生きて行く私』にも、千代の美意識と価値観に多大な影響を与えたエピソードとして書かれている。
《十三年も穿いたと言うことであったが、その足袋は汚れてはいなかった。幾十回となく洗い晒したものであっただろうのに、汚れてはいなかった。》
《指さきにも、鼻緒の当たるところにも、勿論、その足袋の底にも余すところなく、ぎっしりと白糸で刺してあるのが、美しい、としか言いようがなかった。私は口も利けないで、その足袋を見詰めた。(中略)その足袋によって物語られるものの集積が、この伯父の家の莫大な財産になったのだと言うことを、私は一瞬の間に理解したのであった。》
宇野千代が体験したのと同じように、珠が、浪江の「13年履いた足袋」を一瞥しただけで《足袋によって物語られるもの》を理解した様子がそのままシーンになっていた。年季が入っていながら刺子のように美しい陰影を放つ浪江の足袋を見た珠は「真っさらな足袋より、よっぽどええ」と感じ入る。
衣装部の苦労
「汚れては洗って、穴が空いては繕って」が見事に表現されていた浪江の足袋。この「味」を出すための苦労を衣装スタッフに聞くと、
「もともと新品の白足袋から始まりました。実際にスタッフに履いてもらい、擦れるところがわかり、そこを重点的に穴をあけ、洗濯し、ふさいでいくというダメージを何回も施す作業をしました。北海道なので別珍という生地を使用し、生地と糸の縮みでダメージがわかり、味が出るようにしました」
とのこと。ほんの一瞬のシーンのためにも手を抜かない本作スタッフの気概が伝わる逸話だ。
浪江の足袋から生きる知恵を授かった珠は、同じく第29回で近所の子ども、タケ坊(竹林遼)の着物のほつれを繕ったことをきっかけに、仕立てと繕い物の仕事を請け負うようになる。珠は少しずつ北海道の地に足をつけて、生きていくのだった。