東京都在住のJさん(40代)は、なぜか昔から人に道を聞かれることが多いそうです。
駅の近くを歩いていると「駅はどちらですか?」、旅行先でも「このお店に行きたいのですが…」と声を掛けられることもしばしば。自分では「話しかけやすいタイプ」だという自覚はありませんが、困っている人を無視するわけにもいかず、分かる範囲で答えるようにしています。
「どう見ても不審者なのに、なぜ私に?」
そんなJさんがある日、風邪をひいて病院へ向かっていたときのことです。
信号待ちをしていると、またしても見知らぬ男性から「ハローワークはどちらですか?」と声を掛けられました。
その日のJさんはノーメイクにマスク、眼鏡姿。ぼさぼさの髪を隠すように、帽子を深くかぶっていました。 ヨレヨレの部屋着にパーカーを羽織っただけの格好で、近所で知り合いに会わないように、うつむき加減に歩いていたといいます。
「自分でも、どう見ても不審者っぽいと思っていたんです。だから、なぜよりによって私に聞くんだろうって(笑)」
とはいえ、聞かれたからには答えようと、Jさんは男性に道を教えました。
「次の信号を右に曲がれば、すぐ分かると思います」
男性は「ご親切に、ご丁寧に、どうもありがとう」とお礼を言って、横断歩道を渡っていきました。
Jさんも、少し気分よく病院へ向かったそうです。
「右じゃなくて、左だった!」
ところが、診察を終えて帰宅する途中、ふと気付いたのです。
「……あれ?この交差点、右じゃなくて左だった!」
なんとJさんは、堂々と道を間違えて教えていたのです。
「えっ、どうしようと思いました。もう訂正することもできないし、あのおじさんを余計に迷わせてしまったかもしれない」
もちろん、わざと間違えたわけではありません。親切心から答えただけに、「本当にごめんなさい」と心の中で謝るしかありませんでした。
実はJさん自身も、旅行先などでは人に道を聞くことがあります。土地勘のない場所では、自分でも方向が分からなくなることがあるからです。
「だから、道を聞きたくなる気持ちはよく分かります。私も分かるところなら教えてあげたいんです」
今回の一件を思い出すと、今でも少し申し訳ない気持ちになるというJさん。
「ちゃんと覚えているつもりだったんですけどね。次からは、道を教えるときはもう一度よく確認しようと思います」
道を聞かれることが多いJさんですが、親切に教えた道が、まさかの逆方向だった今回の出来事は、本人にとっても忘れられないエピソードになったようです。