tl_bnr_land

【ブラッサム】なぜ「もうひとりの清治」が登場したのか 制作統括が語る珠の父と、その死

佐野 華英 佐野 華英

連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK総合)の第2週「父からの、解放」で、珠(石橋静河)の父・清治(渡部篤郎)が亡くなった。

雪がちらつくある日、清治は「もうひとりの清治」の幻影を見る。幻影は清治に向かって「みすぼらしい」と吐き捨てるように言い放つ。清治は包丁を振り回し、往来に飛び出して叫ぶ。「まだ終わらん…まだ終わらん!」「死にとうない…死にとうない」。その日、清治は絶命した。

史実では大雪が積もった日だった

珠のモデルである宇野千代は著書『生きて行く私』の中で父・俊次の死の直前の様子についてこう綴っている。

 父が死んだのは、あけの年の二月の始めであった。三日前に大雪が降った。この地方では雪が降るのは珍しかったが、それもこんな大雪は見たことがないと言うことであった。

 この大雪が、死に瀕している父の脳裡に、何を考え出させたのであろう。誰もそばにいなかったほんのちょっとの隙に、父は台所にあった出刃庖丁を手に持って往還さきににじり出たのであった。「寄るな。寄って怪我するな、寄るとどいつもぶった切るぞう」と言って、庖丁を振り廻した。

父の壮絶な死と雪景色が紐づいて、千代はその日の光景が《何か、絵に描いたもののように、私の脳裡に残っている》と語る。そのあとに《私は父に代わって、あの瞬間の父を語ってやりたいのである。》として、絶命の直前の父の心情についての千代の考察が続く。

『ブラッサム』第2週で描かれた清治の死のエピソードは、千代による「父・俊次の心情の代弁」をヒントに、さらにイマジネーションを広げて創作されていた。「もうひとりの清治」の登場と、史実どおりの大雪が積もった日ではなく「雪がパラパラとちらつく日」はドラマのオリジナルエピソードだ。この作劇意図について、制作統括の村山峻平さんに聞いた。

家父長制のもと、男性側の苦しみも描きたかった

村山さんは「僕は制作者の意図をあまり言いたくないタイプで、ドラマの中で描かれていたことをどう受け取るかは、視聴者の皆さんに委ねたいと思っている部分ではあるのですが」と前置きした上で、こう話す。

「『ブラッサム』で描いている時代は、女性の生き方や行動が非常に制限されていて、当時の女性たちはそれを意識することさえできないぐらい当たり前に、世の中の根底に『制限』がありました。そこからちょっとでもはみ出そうとすると、いろんなものが降りかかってくる。それを、第1週・2週に始まり、これからも珠の物語を通じて描いていくのですが、じゃあ、男性の方はどうだったのか。男性だって、息苦しさを感じていたのではないかと思うんです」

明治・大正の世の中の常識であった家父長制の下、男性には男性の苦しみがあったと村山さんは言う。

「家父長制の中、圧倒的な長男優位主義が定められていることで幸せになった人もいるでしょう。けれど、清治のように『そうじゃない』人もいたはずです。長男という立場に甘んじて生きることができない人の『息苦しさ』や『自由への渇望』を描きたいと思いました」

「清治の中にある何かしらのものが、こぼれていく」

ちなみに、珠のモデルである宇野千代の父・俊次は老舗酒蔵の次男で、清治の長男という設定はドラマオリジナル。この「長男設定」が、清治の生きづらさと苦悩をより際立たせている。非常に複雑で難しい清治という役どころを演じ切った俳優・渡部篤郎について、村山さんはこう話す。

「清治の生き方はやっぱりどうしたって自分勝手に見えるし、清治自身も周りにどう思われようがかまわないと思っている。一方で、自分の人生で成し得なかったものを悔やんで、もがいている。そこのところを渡部さんは変に美化したりせず、『清治の中にある何かしらのものが、こぼれていく』ということを見せるために集中して、見事に演じてくださいました」

死の直前、「もうひとりの清治」を登場させた意図については、

「清治の中で『なりたかった別の自分』みたいなものを最後の瞬間に表出させることで、視聴者の皆さんが消化不良にならないように、ギリギリわかる、あるいはギリギリ分からない範囲の演出になっているかな、と思います。『もうひとりの清治』は最初の台本にはなかったのですが、脚本家の櫻井剛さんとチーフ演出の盆子原誠が、いろいろとアイデアを出す中でできたエピソードです」

と明かした。

残された家族たちが、次の季節に向かっていく姿を見せたかった

また、史実の「大雪が積もった日」を「雪がちらつく日」にアレンジした理由については、こう話す。

「史実では《三日前に大雪が降った》あとでしたが、作劇意図としては『春を感じたかった』というところです。雪景色の中、清治が亡くなって第2週が終わるのはすごく悲しい。清治は清治でいろんな思いがあったかもしれないけれど、いなくなったあとに残された家族が、彼の死をどう受け止めながら次の季節(新春)に向かっていくのか、という世界観を見せたいと思いました。新春の前の12月にぱらつく雪のようなニュアンスにしています。僕はどちらかというと、清治が亡くなったあと珠とリョウの縁側での会話が、第2週のピークだと思っています」

次週、第3週「化粧と、初恋」では、清治から解放された珠が、生まれて初めて男性と恋に落ちる。

ブラッサム公式サイト

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース