地方都市の郊外で暮らす中野ゆかりさん(仮名)は44歳。地元の会社で事務職として働き、会社員の夫、中学1年生の長女、小学3年生の長男と暮らしています。
子どものころから忘れ物が多く、片付けや予定の管理も苦手でした。それでも手帳に書き込んだり、同僚に声をかけてもらったりして、何とか乗り切ってきました。
変化があったのは昨年の春です。異動で請求書の発行を1人で任され、同じ時期に長男の小学校のPTA役員と、長女の部活動の送迎も加わりました。
すると、請求書の送り忘れや会議の時間の勘違いが、月に数回起きるようになりました。家でも、提出物の期限や長男の習いごとの送迎を忘れることが続きました。上司に注意された日の夜、大人の発達障害についてインターネットで調べ、自分も当てはまるのではと考えるようになりました。
発達障害かもしれないと感じたとき、どこに相談し、何から始めればよいのでしょうか。
「もしかして…」大人になってから特性が目立つ理由
発達障害者支援法は、発達障害を脳機能の障害であって、その症状が通常は低年齢で現れるものと定めています。このうち注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性といった特性によって、生活上の困難が生じている状態をいいます。
大人になってから突然、発達障害になるわけではありません。
国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センターは、就職や結婚、子育てなど生活の段階が変わるときに、新たな困り感が生じることがあるとしています。もともとの特性が、求められることが増えて目立つ場合があるのです。ただし、ミスが続く理由は一つとはかぎらないため、自己判断は避けましょう。まずは専門の相談機関や、医療機関を頼ることが大切です。
相談をスムーズに。受診前の「困りごとメモ」の作り方
相談に向けて、いつごろから、どのような場面で、どのくらいの頻度で困っているのかを書き出しておくと、自分の状況を整理でき、相談時にも伝えやすくなります。発達障害情報・支援センターは、困りごとをメモにし、卒業した学校や就職先などを簡単な年表にしておくと便利だとしています。
子どものころからの育ちの様子である生育歴も、重要な情報になります。母子健康手帳や小学校の通知表などが手元にあれば、役立つ場合があります。
どこに相談する?「発達障害者支援センター」と「医療機関」
メモや資料で困りごとを整理できたら、次のような専門機関が相談先として考えられます。
▼発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある人と家族への支援を総合的に行う専門機関です。都道府県や政令指定都市のほか、都道府県知事などの指定を受けた社会福祉法人などが運営しています。日常生活の相談に応じ、必要に応じて医療機関などの関係機関について、情報提供や連携も行っています。
発達障害の心配がある人も対象にしている自治体があり、診断を受ける前でも相談できる場合があります。発達障害者支援センターは医療機関ではないため、原則として診断は行っていません。対象者や相談の方法は地域によって異なるため、住んでいる地域のセンターに確認してください。
▼医療機関を受診する場合
診断は医療機関で行います。大人の場合は、こころの病気を専門に診る精神科などが受診先として考えられます。ただし、大人の発達障害を診療しているかは医療機関によって異なるため、事前に電話で確認するとよいでしょう。子どものころの様子を知る親などに同行してもらう方法もあります。
▼自分の特性に合った工夫を考える
具体的な対処法を見つける際は、専門機関の知見も参考になります。障害者の就労支援を研究する障害者職業総合センターでも、手帳に予定を書いて確認する習慣づくりや、やることリストの活用などを有効な工夫として挙げています。どの方法が合うかは人によって異なるため、医師や相談員と話しながら探していきましょう。
「努力不足ではなかった」特性を知り、自分に合う工夫を見つける
ゆかりさんは、県の発達障害者支援センターに電話で相談しました。面談の前に、起きたミスを場面ごとに書き出し、年表も作りました。
面談では相談員と、確認作業が重なるときにミスが起きやすいことを整理しました。その後、センターから医療機関について情報提供を受け、精神科を受診し、実家の母が探してくれた通知表も持参しました。医師からは、注意を保ち続けることや予定を覚えておくことが苦手な特性があると説明を受けました。「単なる自分の努力不足ではなかった」と分かり、ゆかりさんは少しほっとしたと言います。
今は職場で請求書の手順を確認リストにし、一つずつ印を付けて進めています。家庭では、学校行事や送迎の予定を、夫と共有するカレンダーアプリに入れています。ミスが全くなくなったわけではありませんが、以前より確認漏れは減りました。自分の特性を知り、専門機関のサポートを受けながら自分に合う工夫を見つけることが、安心して暮らし続けるための第一歩になります。
【監修】鍋島 千紘(なべしま ちひろ)社会福祉士・保育士・Webライター。社会福祉士として12年間、障害・障害児福祉分野を中心に、直接支援や相談業務に従事。現場で培った知識と経験をもとに、専門性と正確性を大切にしながら、読者に寄り添った分かりやすい記事の執筆・監修を行っている。