ふとしたことがきっかけで、周囲の目が怖くなることもあるでしょう。しかし、恐怖から立ち直るのも同じく、ふとしたきっかけなのかもしれません。漫画家・浦部はいむさんの作品『生きづらいまま笑えたなら』は、様々な生きづらい理由を抱えた人たちを描く短編集です。同作の抜粋エピソードが『引きこもりの友人を外に連れ出したお話』としてX(旧Twitter)に投稿されると、約1100のいいねを集めています。
高校生のつかさは、不登校のまま自宅に引きこもっています。中学のころから周囲の目が怖く、全員の前で音読しようとすると声が震えてしまうのです。今では、教室そのものが怖いと感じていました。そんなある日、自宅に担任の先生がやってきます。つかさの父は、つかさが学校に行かないのはただの甘えだと話していました。
そんななか、担任が心療内科を勧めたため、後日父とともに受診することにしました。つかさは心療内科の医師に、教室全員が自分を見ている気がすること、電車も向かい合わせが怖くて1人で乗れないと伝えます。すると医師は、つかさの症状を『社会不安症』だと告げ、不安を抑える薬が処方されました。
実はつかさは中学時代、音読の件がきっかけでクラスの男子からいじめを受けていました。そんなある日、いじめていた男子たちが自宅にやってきて、「学校来なよ」とヘラヘラと笑いながら話します。激昂して彼らを追い返したつかさは、「みんな敵みたいな目をしている」と感じ、卒業アルバムをカッターで切り裂いてしまったのです。
それでも決して引きこもりたいわけではなく、本当はクラスに溶け込んで皆とワイワイしたいと願っていました。しばらくして、つかさのもとに1通のメールが届きます。送り主の名前は律、中学時代につかさが好きなビジュアル系バンド・漆黒の涙をきっかけに仲良くなった友人です。
別の高校に通う律は、つかさが不登校になっているという噂を聞いて連絡を送りました。後日2人が再会すると、律はアルバイトで貯めたお金で買った漆黒の涙のライブチケットをプレゼントしました。つかさはおどろくものの、ライブに行けるような服を持っていません。そこで2人は大阪に遊びに行き、格好いい服を購入しました。
つかさは「自分みたいなのが会いに行ってもいいのか」「周囲から気持ち悪がられないか」と不安を抱えつつ当日を迎えます。つかさと律は買ったばかりの服を着て、雑誌で学んだビジュアル風のメイクを施しました。律の勧めで、つかさは前髪も格好よく切りそろえてもらいます。
ライブに向かう最中も不安は消えず、皆に見られている気がしましたが「こんな服装してるし見るよな…」と思い直して乗り切ります。開演直前まで、ライブ会場特有の閉塞感に息苦しさを感じていたつかさでしたが、漆黒の涙の歌声を聴くとその不安はすっかり消え去りました。
彼らの魂の歌声と光り輝く姿を見て、つかさの心に一筋の光が差し込みます。ライブ終了後、2人は深い余韻に浸りました。これからもライブに行ったり格好いい服を買ったりしたいと考えたつかさは、意を決してアルバイトをはじめます。こうして貯まったお金をもとに、2人は輝く青春を過ごしたのでした。
時は流れ、成人したつかさは現在派遣社員として働き、とあるガールズバンドにハマっています。つかさは1人でそのバンドのライブに行くと、ライブ初参戦で緊張しているという少年に出会いました。少年は、一緒に行くはずだった人に急遽キャンセルされたうえ、人が多い場所が苦手で不安でいっぱいなようです。
かつての自分を思い出したつかさは、少年に声をかけ一緒にライブ参戦するのでした。あのとき、恐怖で1人で電車にすら乗れなかったつかさでしたが、今はすべて問題なくできていることに不思議な感覚を覚えます。学校の事情を深く聞かず、ただチケットだけを持ってきた律に、改めて心からの感謝を噛み締めるのでした。
読者からは「いい話…」「小さなきっかけでも救われることってあるんだなあ」などの声が寄せられています。そこで、作者の浦部はいむさんに話を聞きました。
作者が15歳のときに引きこもりになった経験をもとに描いた
―同作を描いたきっかけについて教えてください
学校、仕事に行けなくなった人、家から出れなくなった人の物語を描きたかったので描きました。私は15歳のときに高校に行けなくなり、1年ほど引きこもっていましたので、当時の自分と同じ環境の人、身近にそういう人がいる方に読んでもらいたいなと思っています。作品として残ると何年経っても読み返せるので、完成させられてよかったです。
―作中、浦部さんの過去も取り入れたとのことでしたが、具体的にはどのような部分を反映させたのでしょうか
1話目の喋り方が変で笑われるシーンからですね。話し方に少し?特徴があるらしく、笑われたのがきっかけであまり喋れなくなりました。大人になってからは逆に褒められることが多くなり、今では自分の話し方、声がほどほどに好きになりましたよ!
あとは律が好きなバンドのチケットを持って来てくれるシーンも、リア友が本当にしてくれたことでした。あのとき引きこもってる自分を外に出してくれた友達に救われました。
―同作が掲載されている単行本『生きづらいまま笑えたなら』を、どのような方に読んでいただきたいですか?
生きづらさを感じている人に読んでもらいたいですし、生きづらさを感じてない人にも読んでいただきたいですね。4作品収録されています「会食恐怖症」「特殊性癖」「性差」「社会不安症」をテーマで描いてます。単行本にあとがきとイラストも収録しているので見ていただきたいです!
<浦部はいむさん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/urabehaimu
『生きづらいまま笑えたなら』
▽掲載サイト(Gコミ)
https://g-comi.jp/series/5e8ed8b379da1/new
▽販売リンク(ジーオーティーウェブサイト)
https://gotbb.jp/book.php?sku=MEDUC060