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DV夫から被害者を救い出す夜逃げ屋 「漫画にしたい」同行取材の現場で目撃した壮絶な修羅場【漫画】

海川 まこと 海川 まこと

家族や同居人から暴力を振るわれ、「今いる環境から逃げ出したいけれどどうすればいいか分からない」と悩んでいる方もいるでしょう。そうした人を安全な場所へ避難させる、『夜逃げ屋』と呼ばれる専門の引っ越し業者が存在します。漫画家・宮野シンイチさんの作品『夜逃げ屋日記』は、そんな『夜逃げ屋』に就職した作者が、実際に体験したことを描いたほぼ実話の作品です。同作の抜粋エピソードが「裏稼業に就職した話」としてX(旧Twitter)に投稿されると、あわせて約2.2万ものいいねが寄せられました。

ときは2015年。作者は漫画家として連載を目指していましたが、出版社に原稿を持ち込んでもまったく採用されず、意気消沈していました。そんななか、ニュースでDV被害に遭った女性が『夜逃げ屋』を使って子どもとともに夜逃げするという報道を目にします。

これに衝撃を受けた作者は、悩んだ末に思い切ってその夜逃げ屋へ電話をかけ、「あなたたちの漫画を描きたいんです!」と告げました。すると電話口に出た社長から了承を得ることができ、次の日曜日にさっそく取材することに。

約束の日、作者が緊張しながら待ち合わせ場所にいると、サングラス姿の『夜逃げ屋』女性社長がやってきます。すると社長は「予定変更!取材は後!」と、突如夜逃げの現場に作者を連れて行くといい出したのです。作者は突然の出来事におどろきながらも、心の準備ができないまま夜逃げの現場へとやってきてしまいました。

今回の依頼主である41歳の女性・恭子は、夫が強いるルールの影響で、ストレス性の味覚障害を発症しています。それは「夫が入浴する際お湯が41度以下なら掃除からすべてやり直し」「2コール以内に電話に出ないと家を追い出される」「食事中に音を立てたら1日食事抜き」といった、あまりにも強烈なルールでした。さらに夫は自宅を仕事場としていたため、恭子は常に監視されているような息苦しい状態で生きていたのです。

作者は、昼間にどうやって夜逃げするのか疑問に思いながら依頼者の自宅へと入ります。すると、夫は自宅のなかで警察官に監視されている状況でした。一度夜逃げをすると忘れ物は取りに帰れないため、恭子も同行しながら荷物を運び出します。

警察の監視下でなら夫はこちらに手出しできないと思っていたところ、なんと突然警察官が帰りだしてしまいます。今のご時世ではあり得ないことですが、当時は現場の判断で勝手に帰る警察官もいたそうです。すると当然夫は騒ぎ出し、「どこに行くのか教えろ!」と詰め寄り始めました。

恭子をトラックへ避難させたことで、夫もひとまず落ち着きを取り戻したように見えました。作者はそれまで「夜逃げをする人ってどんな人だろう」と考えていましたが、恭子を見てどこにでもいるような普通の人なんだと実感します。しかしそんな矢先、ゆらゆらと恭子の夫が作者のもとに近づいてきて、焦点の定まらない真っ黒な目でこちらを見つめてきたのです。

そのとき、社長が作者のそばへやってきました。すると恭子の夫は、社長の頭をいきなり鷲掴みにしたのです。社長はすかさず夫の胸ぐらをつかんで床にねじ伏せ、「人が優しくしてりゃつけ上がりやがって…殺すぞ」と、ものすごい剣幕で睨みつけました。恐怖におののいた男はそのまま2階へと逃げ帰り、その後降りてくることはありませんでした。

無事に夜逃げの仕事を終えた一行。恭子は、社長からもらったパンを頬張ると、溢れんばかりの涙がこぼれだし「おいしいです」と訴えます。そんな恭子に対し、社長は「これから頑張りましょう。私も手伝います」とそっと声をかけるのでした。

それから作者と社長はカラオケ屋に行き、取材がてら熱唱します。8時間ほど歌い、打ち解けたあとに作者は夜逃げ屋をはじめたきっかけを尋ねました。社長には鼻筋の真ん中あたりに少し出っ張った部分がありますが、これは元夫のDVでヘッドバットを食らい、顔ごと潰された傷跡だったのです。

当時の社長は、見つかったときの報復を考えると今のほうがマシだと思い逃げることができませんでした。しかし、このままだといつか本当に殺されると思った社長は、ある日1人で夜逃げします。そのときにきれいな星空を見て「生きててよかったと思えた」からこそ、現在の『夜逃げ屋』の活動につながりました。

作者は重い話に衝撃を受けていたところ、社長に「うちで働いてみるか?」と声をかけられます。続けて「明日依頼あるからとりあえず来いよ」と言われた作者は、意を決してこの世界に足を踏み入れるのでした。

読者からは「社長さんの心意気が格好よすぎる」「心揺さぶられた…」などの声があがっています。そこで、作者の宮野シンイチさんに話を聞きました。

実際の社長も作中のような温かく格好いい存在

―『夜逃げ屋』を作品として落とし込むうえで、意識したことや苦労した部分などはありますか

自分は元々、絵を描く作画担当ではなく、話を考える原作者として活動したいと思っていたので、絵に関しては完全にど素人でした(今もまだまだ拙いんですが汗)。ただ、どれだけ下手でも、いつ、どこで、だれが、何をしているのか、それがわかる絵だけは心掛けていましたし、それは今も意識してます。

あとは、現場で見た景色、特に、依頼者さんの表情はどんなに難しくても細かく表現したいと思っています。焦りや、怒りや、悲しみや、うれしさや、虚しさなど複雑な感情が入り混じるのが夜逃げの現場だと思うので、そこは苦労しつつも、逃げずに描きたいとずっと思っています。

―作中、社長の姿がとても印象的でした。宮野さんにとって社長はどのような存在ですか?

絵を描いたことがほとんどない、代表作や受賞歴もない原作者志望の、謎の男の執筆活動を、文句ひとついわず、作品ができるまで何年も何年もずっと見守ってくれた人です。もう1人の母のような存在です。

ちなみに、それを社長本人に伝えたところ「お前なんか産んだ覚えねぇよ!」って言われました(笑)。

―読者のなかには、「本当に逃げていいのだろうか」とためらっている方もいるかと思います。そんな方々にメッセージをお願いいたします。

社長に依頼をしに来られる方で「本当に逃げていいのかな?」と言う方が非常に多いんですが、生きるために逃げるというのは全然アリだと思います。逃げることから逃げずに、生きることに向かっていってほしいと思ってます。

<宮野シンイチさん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/Chameleon_0219
▽Instagram
https://www.instagram.com/yonigeya_nikki_shinichi
『夜逃げ屋日記』
▽単行本(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4046826169
▽KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322303000847/

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