「仕事飽きたので突然勉強したくなって人生初の塾に入った三十路なんですけど、偏差値60以上の高校生達に混ざって勉強してると「ママと宿題頑張ったけど解けなかった」「お父さんの方がハマって数Ⅲ積分教えてくれる」と話してくれて親に一度も勉強見てもらったことがない私は驚いた。家庭環境大事...」
30歳になり、「もう一度勉強をしたい」と一念発起して塾に通うようになったむぎナスさん(@mkamkaumai)。高校生たちと勉強していく過程で、子どもに対する親の関わり方や、自分の学生時代との違いも発見。
親となった今、学び直しをしたからこその気づきについて、話していただきました。
学生に戻って学び直したい気持ちがあった
むぎナスさんが塾の門を叩いたのは2025年11月。
「看護師になって10年目になり、やりたい分野の看護はやりきったなという気持ちが湧いてきて、この先も看護師を続けていくビジョンが見えなくなったのです。
以前から学生に戻って学び直したいなと思っていたし、小さい頃になりたい職業があったことも思い出して、勉強しようと決意しました」
家族の存在も、むぎナスさんを勉強に向かわせたと言います。
「子ども達が宿題をやっている時に、夫は読書や仕事の勉強をしています。私以外の家族がやるべきことに熱心に取り組んでいるのに、私だけが仕事のモチベも落ちて何もしていないという状況も怖かったです」
専門学校卒で大学受験の経験がなく、現役時代に塾に通った経験はなし。しかし、塾で勉強することを家族に告げると前向きな反応でした。訪れた塾も、勉強の基礎が抜けてしまっているむぎナスさんに優しい対応で、2月から塾通いがスタートしました。
授業受けるだけでエネルギー消耗。でも二度目の青春!?
むぎナスさんは女の子ふたりのお母さんです。
「塾に通う高校生たちの中には、長女の方が歳が近い子も。彼らに気を遣わせたくないから、自分からは関わらないようにしていました」
しかし、同じ授業を受けるうちに周囲の学生たちの対応にも徐々に変化が…。
「わざわざ話しかけてくれる子もいて仲良くなりました。自習室の机にバイト先のごはんや、おすすめのテキスト、手紙をおいてくれた子たちも。もう一度青春している感があって楽しいです」
ほぼ中卒学力からのスタートなので、授業を受けるだけでドッと疲れるそう。けれども、塾の先生の話は面白く、学ぶことの楽しさを実感。
「昔学んだ同じ内容でも一つの情報に対する解像度がまるで違うことにもびっくりしました。学生時代よくわからなかった化学構造式は、いつも病院で使っている薬の成分に含まれている!と気づいて、学びと現場が地続きであることを改めて理解しました」
その一方で、受験から逃げた過去の自分と向き合う時間でもあるため、辛さを感じることも。
「学生時代の私は、あまりやる気もなく、将来の夢もなく、“勉強しろ”とだけ言ってくる親にうんざりしていました。だから、勉強に熱心な子たちを見て、ちょっと羨ましいと感じました。将来やりたいこともなく周りに言われるがままなりゆきで進学を決めた私の10代の頃との違いに驚かされました。
一回り以上歳の離れた子が、同じ土俵で必死に頑張っている姿を見るのは、私にとって本当にいい刺激。自分が自分のことを好きでいるために、私も本当に頑張らなくてはいけない」
勉強はプロに任せる、親は寄り添う
塾で知り合った子たちの家庭環境にも新鮮な驚きがありました。
「全員に当てはまることではないのですが、彼らはみんな親御さんの話を頻繁にするんです。仕事熱心で今も勉強を続けるお父様を尊敬していると話してくれる子もいて衝撃でした。
めざす将来像に近い大人が身近にいる。それは20歳前後のまだ遊びたい盛りであるはずの子たちにとって、勉強を頑張るモチベになっているのではないでしょうか」
模試の偏差値だけでなく勉強の中身にも関心を持つ保護者が多い印象を受けたそう。
「模試や成績表の数字だけに目をつけるのではなく、もっと中身に興味を持って、学生時代の私に寄り添ってくれたら嬉しかったなあ」
また、勉強はプロに委ねた方がいい、と思ったできごとも経験。
「ある過去問でわからなかったところを聞きに来てくれた子がいたんです。私の得意分野だったので教えてよ、と。ところが、私自身は理解しているのに、言葉でうまく伝えられなくて……。教えるプロである先生に任せた方がいい、と思いました。
親はどこまでいっても『勉強を教える』ことは素人。口を出すより学校や塾でプロに聞いた方がいいですね」
家で勉強していると、子どもが横で宿題
家事や育児、仕事をしながら勉強時間を捻出するのは至難の業です。むぎナスさんに勉強時間や勉強方法はどうしているのでしょうか?
「何時間やるというより、問題数などで1日のノルマを決めています。家事や仕事、子どものことなどいろんなことで中断されがちですが、フルタイム勤務ではないので日中や深夜帯は独身に戻ったように勉強にのめり込むことができます。
移動中は若い子に教えてもらったアプリで英単語をひたすらやるなど、ぼんやり携帯で時間を溶かさないようにしています」
家庭内でも変化がありました。
「私が勉強をしていると、自室から宿題をもって子どもたちが集まってくるようになりました。同じ空間でそれぞれが別の課題と戦いながら過ごす時間が楽しいです」
子どもたちの受験はまだ少し先のことですが、「進む道を強要するつもりはないし、自分自身で決めてほしい」とむぎナスさん。しかし、自身の通塾は親としてプラスの経験だったと言います。
「もし大学受験をすることになったとき、自分がその苦しさを知らずに“勉強しなさい!”とだけ言う親にはなりたくなかったので。勉強法に口を出したり、出しゃばり過ぎたりしないようにしたいですね」
10代の頃より、なりたい自分像がくっきりしてきた
大学受験に向けてスタートした塾通いですが、家庭の事情で9月から休塾して自宅学習に切り替えています。
そして、改めて「大人になってからの学び直しは贅沢。めちゃくちゃ楽しいです!」と言います。
「なぜ勉強させられているのか?がわからないまま、大人になってしまった人は、私だけではないと思います。高校生時代の私にとっては、目の前の部活や友達付き合い、おしゃれ、恋人と過ごす時間が何よりも大切なものでした」
社会に出て仕事と育児に追われつつも、目先のことよりも未来のことをよく考えるようになったそうです。
「子育ては娘の成長を通じて人生の2周目をしているような感じです。部活・友達・恋愛など周りのことでいっぱいだったあの頃よりも、“私の中の私”という輪郭がよりハッキリしてきました」
学生時代はぼんやりとしていて掴みきれなかった『やりたいことのために何をすべきか、10年後はどんな自分になっていたいか』が明確になると同時に、学びを深めていくことで、10代では気づかなかったことにもたくさん気づきました。
「若い頃は退屈だった倫理(哲学)は、“どう生きるか”で悩み始めてしまった社会人の自分にとって、過去の偉人がつくった人生の教科書なんだなぁと思いました。
昔、授業中に先生が言っていたなにげない一言を13年後の今になって理解したり、ある問題に対する当時の自分の心の葛藤を思い出しながら自分なりに決着をつけたり、過去のことが紐解かれていくような感覚があります」
「頭が良くなったわけではありませんが」と謙遜しつつもむぎナスさんはこう言います。
「すべての情報に色がついたみたいで、過去の記憶と答え合わせすることができる。それが“大人の学び直し”の特権だと思います」
■むぎナス X @mkamkaumai