8月中旬に千葉県内を襲った豪雨では、道路の冠水により車が水没する被害が相次ぎました。もし運転中に車が動かなくなり、ドアも窓も開かなくなったら、どうすればよいのでしょうか。
事故や水没時に、車の座席上部に取り付けられ、頭部を支える「ヘッドレスト」を使って窓ガラスを割る方法を紹介した動画が、Instagramで注目を集めています。
投稿したのは、兵庫ダイハツ販売株式会社の公式アカウント「上司とわたし【兵庫ダイハツ販売株式会社】」さん(@hyogo_daihatsu_pr)です。
ヘッドレストの金属棒を窓の隙間へ
動画に登場したのは、兵庫ダイハツの藤木さん。「このヘッドレストが役に立つんです」と、車から緊急脱出する方法を実演しました。
紹介された手順は、まずヘッドレストを取り外し、金属棒を窓の四隅のいずれかに差し込みます。ヘッドレストをたたきながら金属棒を窓の隙間へ入れ、真下に引いてガラスを破壊。ヒビが入ったら、金属棒を使ってさらに割るというものです。
投稿には、「この動画のおかげで、どう差し込むのかやっと分かりました」「初めて知りました。勉強になります」といった声が寄せられました。
一方、「割った後は窓から脱出するの?」「ガラスが中に入ってきたら危ないと思う」「いきなり割るのと、差し込んでから割るのは違うの?」など、安全性や具体的な手順を尋ねる声も上がっています。
930万回表示、約6万8000件が保存
兵庫ダイハツ広報の笠井さんは、動画制作の背景について、地域の人々に安心・安全なカーライフに役立つ情報を届けたいという思いがあったと話します。
「事故や豪雨による道路の冠水・水没など、万が一車内から脱出しなければならない状況になった際に、『知っていることで役立つ可能性のある情報を、多くの方に分かりやすく届けたい』と考えたことが、動画制作のきっかけです」
緊急時の対処方法は、普段なかなか意識する機会がありません。実際に危険な状況に直面してから、落ち着いて調べることも困難です。そこで、短い動画を通して、日ごろから脱出方法を知ってもらおうと考えました。
動画はこれまでに約930万回表示され、約675万人が閲覧。約14万3000件の反応が寄せられ、約6万8000件保存されました。閲覧者の99.8%は、同アカウントをフォローしていない人だったそうです。
「多くの方に保存していただいたことから、『もしものときのために覚えておきたい情報』として受け止めていただけたのではないかと感じています」
ヘッドレストで必ず割れるわけではない
ただし、動画で紹介された方法は、すべての車で使えるわけではありません。
車種によってはヘッドレストを取り外せないほか、構造上、金属棒を窓の端に差し込めない場合があります。
また、動画で紹介しているのは、ヘッドレストの金属棒で窓を単純にたたき続ける方法ではありません。窓の端付近に金属棒を差し込み、力を加えてガラスを割る方法です。
「車種や窓ガラスの構造、ヘッドレストの形状などによって条件が異なるため、必ず窓ガラスを割ることができる方法ではありません」
JAFの検証では、ヘッドレストでサイドガラスをたたいても割ることができず、検証した道具の中でガラスを割ることができたのは、緊急脱出用ハンマーのみでした。
笠井さんは、動画で紹介した方法を「専用の脱出用具がない場合に考えられる、緊急時の一例」と説明します。より確実に備えるため、シートベルトカッター付きの緊急脱出用ハンマーなどを車内に常備してほしいといいます。
フロントガラスはハンマーでも割れない
緊急時に窓を割って脱出する場合は、ガラスの種類にも注意が必要です。
一般的なフロントガラスには、2枚のガラスの間に樹脂膜をはさんだ「合わせガラス」が使われています。JAFの検証では、この合わせガラスを緊急脱出用ハンマーで割ることはできませんでした。
さらに、一部の車種ではサイドガラスにも合わせガラスが採用されており、緊急脱出用ハンマーを使っても割れない場合があります。
「ご自身の車のヘッドレストや窓ガラスの仕様を、取扱説明書などで事前に確認しておくことも大切です」
いざというときに「どの窓から脱出できるのか」を把握しておくことが、命を守る備えにつながります。ただし、ヘッドレストを使う方法を含め、緊急時以外に実際の窓ガラスを割って試す行為は危険です。笠井さんは、絶対に行わないよう注意を促しています。
窓を割った後はどう脱出する?
では、実際に車が水没した場合、どのような手順で脱出すればよいのでしょうか。
まずは落ち着いてシートベルトを外し、ドアが開くかを確認します。ドアが開かなければ、窓ガラスが水面より高く、窓が作動するうちに開けて脱出します。
窓も開かない場合は、緊急脱出用ハンマーなどを使い、割ることのできるサイドガラスからの脱出を試みます。
「窓ガラスを割る際は顔をガラスから離し、割れたガラスを素手で触らないよう、けがに十分注意してください。可能であれば衣類などで手や腕を保護し、窓枠に残っているガラス片にも注意しながら、脱出できる開口部を確保します」
水没時に窓を割ると、車内へ一気に水が流れ込む可能性があります。安全に注意しながら、開口部を確保したら速やかに車外へ出ることが大切です。
同乗者がいる場合は状況によって対応が異なるため、脱出の順番を一律に決めることは難しいといいます。声を掛け合いながら、子どもなど自力での脱出が難しい人を支え、全員ができるだけ早く車外へ出るようにします。
ハンマーがなく、ドアも窓も開かない場合は
一方、ドアも窓も開かず、ガラスを割る道具もない場合は、どうすればよいのでしょうか。
車内への浸水が進み、車内外の水位差が小さくなると、ドアにかかる水圧が下がり、開けやすくなる可能性があります。
JAFでは、ドアが開きそうになったタイミングを逃さず、大きく息を吸ったうえで、足などに力を込めて押し開け、一気に脱出するよう案内しています。
しかし、何よりも大切なのは、こうした状況に陥らないよう、水没する危険のある場所へ車で進入しないことです。
「まず、冠水した道路には無理に進入しないでください。そして万が一に備え、緊急脱出用ハンマーを運転席から手の届く場所に備えておくことが大切です」
冠水路を避けることに加え、自分の車の仕様や脱出方法を日頃から確認しておくことも重要です。笠井さんは、万が一の事態を想定し、事前に備えてほしいと呼びかけています。