大動脈瘤の大手術を乗り越え、市場の立ち退きも経験しながら、76歳で再び店を構えた母親——その姿を娘がInstagramにつづった投稿が反響を呼んでいます。投稿したのは、福岡県北九州市で飲食店を営む両親の姿を娘視点で発信するアカウント「かあちゃんと大将」(@kachan_taisyo)。コメント欄には「素敵なお母さん」「愛情の塊」「羨ましい」といった声が寄せられています。
76歳で新天地へ 再スタートを決めた両親
2026年3月5日にオープンした「にこにこ寿し」は、かつて営んでいた寿司屋の屋号をそのまま引き継いだ店です。当初は惣菜のみの予定でしたが、父の細巻きや巻き寿司を目当てに遠方から訪れるお客さんの笑顔を見て、寿司も加えることにしたといいます。SNSでも「あの『にこにこ寿し』ですか?」と懐かしむ声が届き、昔のお客さんとの再会も相次いでいるのだとか―。
投稿主さんの両親は北九州市で40年以上にわたって寿司店を営み、長男に店を譲った後も65歳から市場で惣菜と寿司を並べて販売し続けてきました。そんな中、母に「手術が難しい場所」にできた大動脈瘤が見つかります。「もう年やけん、手術はせんでいい」と言う母に、父が「病気が見つかってラッキーなんやけ!手術せんといけん!」と背中を押し、8時間に及ぶ大手術を受けることに。お腹から脚まで40センチの傷が残り、当初は食事もとれないほどでしたが、術後1カ月で市場に戻り、惣菜を作る姿を見せました。
「お父さん、やっぱりできるまで2人でずっと商売したいね」と2人が決意を新たにした矢先、今度は市場の老朽化による取り壊しと立ち退きが告げられます。それでも「元気なうちは一緒に商売したい。また一からやればいい」——76歳で、再び店探しが始まりました。
「私自身、両親は自分たちで商売した方がいいと思っていました。夫婦でずっと阿吽の呼吸で商売をやっていたからこそ、今さら別の仕事というのは年齢的にも難しいかな…と。なので、新しく店を始めると決めてくれて嬉しかったです」
「『76歳で商売を始める!?反対だ!』と思った子どもが誰一人いなかったことが、両親が背中で見せてきてくれたことなのかもしれないです(笑)。『働く=お金のためという嫌なことではなく、夫婦で一緒に生きがいとして楽しんでいる両親を尊敬している』と兄が言っていて、私もまさにそうだなと思いました」
43歳で出産、産後まもなく仕事復帰した母
投稿主さんが娘として、両親の再スタートを迷わず応援できた背景には、幼い頃から見てきた母の生き方があります。33年前、まだ高齢出産が今ほど一般的ではなかった時代に、43歳で投稿主さんを出産。そして産後1カ月もたたないうちに仕事へ復帰したといいます。
「自営業だったので、『自分が出ないと!』という責任感のような気持ちがあったようです。仕事そのものが自分の子どものようになっていたというか、母にとっては当たり前に生活の一部になっていたから復帰したのだろうな、と思います」
母におんぶされながら、働く姿を背中越しに見てきたという投稿主さん。そんな生き方を、ずっと尊敬していたといいます。
「人のために」ご飯を作り続ける
独り身になった大叔父へ毎日違うおかずのお弁当を届け、学校のお弁当に一度も冷凍食品を入れなかったとか。「大袈裟かもしれませんが、母にとっては人のためにご飯を作ることが『生きている意味』みたいなものだと思います」と投稿主さんは話します。
「友人のお弁当を羨ましく思ったことも何度もありましたが、今思うと毎日すべて手作りのお弁当というのはすごいなと尊敬しています。母の料理で一番好きなものはコロッケですね。この味!というような決め手があるわけではない、この素朴なコロッケが唯一無二の母の味です。どこのコロッケを食べても、母のコロッケが一番です!」
両親の姿を通してSNSで伝えたいこと
お店の再オープンが決まったことを機に始めたというSNS。発信を始めてからは、多くの人から応援の声が届くようになったといいます。
「応援のメッセージや時には厳しい言葉も含めて、いつも両親と一緒に見ています。そのどれもが、両親や私の励みになっています。誰かの背中を押すきっかけになればと思ってSNSを始めたのですが、気づけばたくさんの方に私たちがパワーをもらっているな、と感じるようになりました」
また、投稿が反響を呼んだことで、昔のお客さんとの再会もあったそうです。
「昔からのお客様がSNSを通して見つけてくださったり、懐かしむメッセージをいただいたりすることもありました。『にこにこ寿し』がどれだけ多くの方に愛され、そしていろいろな方の思い出の一つになっているかを知り、改めて皆様に心から感謝するようになりました。母の愛情が伝わり、『かぁちゃん』と慕ってくれて顔を出してくれる人がいることを嬉しく思います」
母はよく「人生には『まさか』という坂がある」と言うそうです。病気も、立ち退きも、そのひとつでした。それでも「やめる理由より続ける理由を選ぶ」2人の姿を見て、投稿主さんはこう話します。
「76歳になった今もやりたいことに挑み続ける両親を見ていると、どうか自分の気持ちに正直に、自分だけの選択をしてほしいと思わずにいられません」