「これは今朝の渋谷。三が日明けの地獄です」
年明けの渋谷で撮影された一枚の写真とともに、X(旧Twitter)に投稿された言葉が大きな反響を呼んだ。歩道一面を覆い尽くすほどのゴミ。視界の向こうまで果てしなく続く惨状は、日常的に人が行き交う“日本を代表する繁華街”の姿とは思えない。
投稿したのは、8年間にわたり渋谷でゴミ拾いを続けてきた“リアルライフヒーロー”、スミレンジャーZ(通称・スミレちゃん)さんだ。
「部分的に路面を埋め尽くすゴミは何度も見てきました。でも、今日のように視界の先まで続く光景は初めてでした。今にも爆発しそうな感情を抑え、時間も忘れて黙々と拾い続けました」
「個人のマナー」の話では終われない理由
ゴミ問題というと、「捨てる人のモラル」「個人のマナー」が語られがちだ。しかし、スミレンジャーZさんは、今回の光景を明確に“社会問題”だと捉えている。
「『個人マナーを守ればポイ捨ては起きない』というのは理想論です。犯罪が無ければ警察はいらない、というのと同じで、ゼロにするのには限界がある。だからこそ、減少や抑止に取り組むのが行政の役割だと思っていますが、その姿勢が足りていないと感じています」
8年間、現場に立ち続けてきたからこそ見える“構造”があるという。
なぜ、8年経ってもゴミは減らないのか
スミレンジャーZさんは、ゴミ問題が改善しない最大の理由について、こう語る。
「渋谷区は『問題が起きた後の事業やPR』には積極的ですが、『問題が起きないための還元』には消極的だと感じています」
過去に、環境美化に関わる事業者側で働いた経験もあり、その中で税金がどう流れ、どんな利権構造があるのかを内側から見聞きしてきたという。
「公共のゴミ箱を増やすのが一番分かりやすい対策ですが、表向きは『区民の税金で負担を強いるわけにはいかない』として拒まれ続けています。一方で、“問題ありき”の事業には何億円もの税金が使われている。問題がなくなるとビジネスが止まる。そういう構造が、行政や連携企業に染み付いてしまっていると感じます」
「ゴミはゴミを呼ぶ」現場で見える連鎖
投稿には「ゴミはゴミを呼ぶ」という言葉も添えられていた。
「全くゴミがない場所に捨てられる人は、実は少数です。すでに散らかっている場所を見て『自分もいいや』と捨てる人が増える。それが積み重なって、あの惨状になります」
特に問題なのが、まとめて置かれたゴミや、剥き出しの事業ゴミだ。生ゴミはカラスや鳩に荒らされ、さらに散乱が加速する。その対策として、スミレンジャーZさんは議員と連携し、蓋付きゴミ箱の普及支援などにも取り組んでいる。
「拾う人がいなくなったら、もっと酷くなる」
もし、ゴミ拾いをする人がいなくなったら、渋谷はどうなるのか。
「一時的には、確実にゴミはもっと酷くなると思います。でも、その惨状を“対策している姿勢”としてPRし、業者に流れるお金を増やすこともできてしまう。ボランティアに求められているのは、労力よりも『これだけ酷い現実がある』と発信することだと思っています」
実際、投稿をきっかけに現地へ駆けつけた人もいた。
「SNSで早く知れたからこそ、対応できた。もし知られていなければ、もっと広がっていたと思います」
インバウンドのせいではない
ゴミ問題とセットで語られがちな「インバウンド」についても、スミレンジャーZさんの見解は明確だ。
「日本人も外国人も、偏りなく捨てています。人種の問題ではなく、“ポイ捨てが当たり前になっている地域構造”の問題です」
社会問題が起きるたびに、安易に「外国人のせい」にされる風潮そのものに、強い違和感を抱いているという。
それでも、なぜ続けるのか
怒りや虚しさを感じながらも、活動を続けてきた理由を尋ねると、少し考えたあと、こう答えた。
「『続ける理由』より、『辞める理由が思いつかない』からかもしれません」
いじめや不登校を経験し、15年前に始めたボランティア活動。利権構造に異議を唱えた結果、パワハラで鬱(うつ)を患い、自殺寸前まで追い込まれた過去もある。
「それでも今、影響力を持たせてもらい、議員と建設的に話ができている。ある意味、これが自分の人生の到達点だと感じています」
ヒーローの格好をするのも、幼少期からの“ヒーローオタク”としての素直な延長だという。
「こんなに闇深い問題だと知ってほしい」
最後に、この投稿を見た人に伝えたいことを聞いた。
「ゴミ拾いは誰にでもできるからこそ、軽く見られがちです。でも実際は、原因を知ると本当に深くて複雑で、闇のある問題なんです。『こんなに深刻なんだ』という認識を、世の中に叩き込みたい」
美しい街は、誰かの善意の上に成り立っている。その“当たり前”が崩れたとき、私たちは初めて現実と向き合うのかもしれない。