40代の会社員であるAさんは、両親の金婚式という大切な記念日に、兄弟と協力して最高の親孝行を計画しました。それは、総額200万円にも及ぶ豪華客船クルーズのプレゼントです。
旅行から戻った両親は、船上で撮影した満面の笑みの写真をリビングに飾り、たびたび思い出を語るほど喜んでいました。Aさん兄弟も、自分たちの感謝の気持ちが最高の形になり、親孝行ができたという充足感に満たされていたのです。
しかし、数年後、事態は一変します。父親が他界し、相続税の申告に伴う税務調査がおこなわれた時のことです。調査官の鋭い視線が、かつての旅行費用の出金記録に止まりました。単なる家族のお祝いのつもりでしたが、年間110万円の基礎控除額を大きく超える利益の供与とみなされる可能性が浮上したのです。
親孝行の証である美しい思い出が、一転して追徴課税という不安の種へと変わりました。まさか旅行のプレゼントが税務署の指摘対象になるとは夢にも思わず、Aさんの背筋は凍りつきます。果たしてこのケースは本当に課税対象となるのでしょうか。
正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
高額な旅行代金は贈与になる可能性も
ー親への旅行プレゼントは贈与税の対象になりますか?
原則として、対象になる可能性があります。親子間であっても、金銭や高額な経済的利益(この場合は旅行代金)を渡した場合は贈与とみなされます。ただし、日常生活に必要な生活費や教育費、あるいは「社会通念上相当と認められる範囲」のお祝い(香典、花輪代、年末年始の贈答など)であれば非課税とされています。今回のケースでは、この「社会通念上相当な範囲」に収まるかどうかが焦点となります。
ー200万円のクルーズ旅行は、「社会通念」を超えていると判断される可能性が高いですか?
可能性は高いと言わざるを得ません。金婚式という特別な名目であっても、200万円という金額は一般的なお祝いの相場を大きく超えていると判断されるリスクがあります。
特に、現金を親の口座に振り込んで親が支払った場合は「現金の贈与」とみなされやすく、旅行会社へ子供が直接支払った場合でも、その高額な経済的利益自体が贈与と認定される可能性があります。
ー贈与税がかかる場合、納税義務は誰に発生しますか?
贈与税の納税義務者は、財産を「受け取った側(もらった人)」です。
つまり、このケースではプレゼントされた「ご両親(親)」に納税義務が発生します。親孝行のつもりが、結果的に親に税金の負担を負わせてしまうことになるため、注意が必要です。
ー兄弟で分担して支払った場合、贈与税の計算に影響はありますか?
計算に影響はなく、課税リスクは変わりません。贈与税の基礎控除額(年間110万円)は、「もらう人」を基準に計算します。「誰からいくらもらったか」ではなく、「1年間に合計でいくらもらったか」で判断されるため、例えば兄弟2人で100万円ずつ出したとしても、親が受け取った総額は200万円となり、基礎控除を超えた90万円に対して贈与税がかかることになります。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士
10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。