一枚の着物を上下で分割し、身頃に付けたひもを結べば簡単に着られる「二部式着物」。日常着として1950年代に登場して以降、和装業界の片隅でほそぼそと作られてきたが、近年、新たな工夫と改良を施した「新製品」が開発され、幅広い年代の女性にファン層が広がっているという。業界低迷がささやかれる中、何が消費者の心を捉えているのか。背景を探った。
JR守山駅前(滋賀県守山市)の貸しスペースで月に1度開かれている、二部式着物ブランド「湖布(こふ)」の展示販売会。新作着物の他、作り帯や帯留めなどの小物類が並び、40~70代の和装の女性たちが試着を楽しんでいた。着姿や小物使いをひとしきり褒め合った後、連れ立ってレジへ。わずかな時間で数点が売れていった。
「常連さんがここで買った着物を着て集まり、互いの着こなしを見て学ぶ場にもなっているんです」と店主の金守千恵さん(65)。2016年に「湖布」を立ち上げ、リサイクル着物を二部式に加工したオリジナル商品を製造販売する。「正しく着用することにとらわれず、誰もがもっと気楽に、手早くきちんと着られる着物を」と道を探る中で二部式に出合い、改良して理想の着物を作ろうと思い立ったのだという。
着付けができない人のため、衣紋(えもん)がきれいに抜けるような半襦袢(はんじゅばん)を独自開発。襟を抜いた時に上衣の前身頃が上がるのを見越し、前身頃はあらかじめ長く作った。二部式でも難しい「おはしょり」は、ウエスト部分に回したゴムに上衣を挟み込み、下辺が裾と平行になるよう整えれば美しい仕上がりに-。縫製スタッフの力を借りながら編み出した新技術は、念願だった「誰もが簡単に美しく着られる着物」を実現。「いつでも自分で着られ、洋服同様に楽しめる」と顧客に喜ばれているという。
一方、京都では「三部式」の着物が生み出され、爆発的なヒットとなっている。「dricco(ドリッコ)」(本店・京都市中京区)の商品で、上衣と下衣に加え、おはしょりも独立させてベルト状に縫製。上衣と下衣、それぞれに付いたひもを結んで固定し、ベルトを巻けば、煩雑なおはしょりの処理をせずともきれいに着付けられる。
2018年の発売以降、売り上げが伸びず苦しんだが、着付けの簡単さをアピールする動画をSNSで配信しだした2022年ごろから流れが変わった。海外に住む邦人女性からの大量注文が相次ぎ、その後は彼女らの着姿に触発された外国人女性からの発注が続いた。
国内の若者や、加齢で背中や腰が曲がり、自分で着付けられなくなったシニア層もこぞって買いに来るようになり、売り上げは前年比約1・5倍のペースで増え続けている。「作っても作っても供給が追いつかず、オーダーメードのものは半年待ちに。2025年は売上高が1億円に届くかもしれない」と岩崎裕美会長(74)。「まだ改良できるはず。より簡単、よりきれいを目指して良いものにしていきたい」と語っていた。