「絶対ここ、廃墟だろと思ったんです」
そう語るのは、純喫茶巡りが趣味だというXユーザー。石川県金沢市の街中で見つけたのは、鉄格子に阻まれ、外からは営業している気配がまったく感じられない一軒の喫茶店だった。
だが鉄格子には、ひとことだけ書かれた貼り紙があった。
「ここに電話を」
半信半疑で電話をかけると、思いがけず「どうぞ中へ」の声。こうして足を踏み入れたのが、金沢市にある夜営業の純喫茶「ローレンス」だった。
真っ暗な外観、「営業していないかも」と思いながら階段を上った
投稿者がこの店を知ったのは、「19時以降に入れる喫茶店」を探してWeb検索したのがきっかけだったという。
「入りづらい外観とは聞いていましたが、想像以上に真っ暗で…。本当に営業しているのか不安になりながら、外階段を上りました。しかも寒くて雨まで降ってきて、正直かなり心細かったです」
そんな中、2階部分の鉄格子に貼られた電話番号の紙が目に入る。それが“営業中”を示す唯一のサインだった。
電話をかけると始まった「壮大な舞台の幕開け」
電話口に出たのは、店主のおばあちゃん。「はい」とだけ言われ、投稿者が恐る恐る「ローレンスさんですか? 営業していますか?」と尋ねると、「どこにいらっしゃいますか?」
鉄格子の前にいると伝えると、少し芝居がかった口調でこう返された。
「では入って大丈夫ですよ。その鉄格子を開けて中に入り、3階にお上がりください」
投稿者はその瞬間を、「壮大な舞台の幕開けのようだった」と振り返る。
ほぼ真っ暗な店内、“魔女のようなおばあちゃん”の止まらないトーク
3階の扉を開けると、そこはほぼ真っ暗な空間。ドライフラワーやインテリアが所狭しと並び、どこに座ればいいのかも分からない。
そこに現れたのが、“魔女”のような店主だった。
「予約の方ではないですね? 最近は予約が多いのですが、でも大丈夫ですよ。雨の日はね、雨漏りするから座れる席が少なくて…」
そう語りながら、ほぼ一方的に続くお話。投稿者は内心、「どのタイミングで座ればいいんだろう」と戸惑ったという。
店主は過去に無理をして体調を崩した経験があり、夜2時間だけ営業し、自由に話すことを大切にしているのだそうだ。
「コーヒーは嫌い。でも喫茶店だから作ってるの」
メニューはドリンクのみ。店主はこんな“正直すぎる”言葉も口にした。
「私はコーヒーが嫌いなの。味見もできないから、おいしいかどうか分からない。だから正直に感想をちょうだい」
投稿者が「おいしいです」と答えると、素直に喜んでくれたという。
コーヒーはたっぷり400cc。それに合わせて出されたお菓子は3種類。
「スーパーで買ったお徳用だけどね。黒豆せんべい、好き?」
そう言って選ばせてくれ、「うまい」と食べると、もう1枚おかわりまで出てきた。
「ここはコーヒーを飲む店じゃない」
やがて店主は自分用のコーヒーを入れ、投稿者の隣に座る。
「牛乳をたくさん入れると、泥水みたいな色だけど飲めるの」
そう笑いながら、全国の純喫茶をまとめた本を開き、「島根県のこの店に行くのが夢」と語った。
「2026年に創業60年を迎えるまでは休まず営業したいの。もしあなたが先に行くことがあったら、感想を教えてね」
投稿者は、その言葉をメモしたという。
「一人で、ちょっと疲れた夜に行ってほしい」
この喫茶店を、どんな人におすすめしたいか…。
投稿者はこう語る。
「コーヒーを飲む店というより、おばあちゃんの話を聞き、語らう場所だと思いました。行くなら一人で、少し疲れていて、人のぬくもりが欲しい夜がいい」
鉄格子、電話、真っ暗な空間、止まらない人生トーク。すべてを含めて、ここは“喫茶店”というより、ひとつの作品であり、ひとつの人生なのかもしれない。
静かな夜の金沢で、電話をかけた人だけが入れる、2時間の物語が今日も続いている。
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今回の投稿をしたのは、「旅人YAMA@日本分割7周目」さん(@yama31183)。観光1万箇所以上を巡り、走行距離は40万キロ超という“旅のエキスパート”だ。岬や秘境、B級スポット、絶景、車中泊、レトロ自販機などを好む。豊富な実体験とデータをもとに、旅人たちの心に響く発信を続けている。
ブログ「週末大冒険」では、思わず旅に出たくなるスポットを紹介しており、Instagram(@drive.yama)でも旅の記録を発信中だ。