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子どもが大学進学で家を出て…25年続けた“お母さん”が終わった 「涙があふれて止まらない」「連絡したい衝動を抑えられない」、これって変でしょうか?【社会福祉士が解説】

もくもくライターズ もくもくライターズ

「気づいたら、家の中がこんなに静かだったんですね」。52歳の林さん(仮名)は、末っ子が大学進学で家を出た春、初めてその静けさに気づきました。朝起きても誰にも呼ばれない、冷蔵庫のカレンダーに書き込む予定がない、洗濯物が驚くほど少ない。25年間続けてきた「お母さん」という役割が、ある日突然終わったような感覚に襲われたといいます。夕食の準備をしながら、涙があふれて止まらなかった日もあったそうです。

子どもが家を出ていったあと、ふと感じる寂しさや物足りなさ。「空の巣症候群」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは特別な病気の名前ではなく、子育てを終えた親なら誰でも経験しうる、自然な気持ちの変化を表した言い方です。母親だけでなく、父親や祖父母も同じような気持ちになることがあります。

でも、この寂しさは終わりのサインではなく、新しい自分の時間や人生のステージの始まりのサインでもあります。少しずつ、自分らしい生活や楽しみを見つけていくことができる時期でもあります。

最初に訪れる変化

子どもが巣立つと、日常生活に様々な変化が現れます。

まず、家の中の音が変わります。子どもと一緒に選んでいた夕飯のメニューや、週末に家族で楽しんでいたテレビ番組。これまで当たり前だった生活音が消え、静寂が家の中に広がるようになります。また、これまで子どもの行事や習い事に合わせていた自分の予定がなくなり、冷蔵庫に貼った予定表が真っ白になり、買い物リストも短くなります。

さらに、自分の一日の行動が崩れます。「〇時までに夕食を作らなきゃ」「洗濯物を取り込まなきゃ」といった、子ども中心のスケジュールがなくなると、時間の使い方がわからなくなってしまう人も少なくありません。

「夫と二人きりになって、何を話せばいいかわからない」という声も多く聞かれます。長年、子どもを介してコミュニケーションを取ってきた夫婦にとって、これは大きな転換点です。

喪失感の正体を知る

この喪失感は、決して異常なものではありません。しかし適切に対処しないと適応障害やうつ病へと進行するリスクもあります。

社会福祉士の視点から、いくつかのよくある疑問にお答えします。

Q: この悲しさは病気でしょうか?

 A: いいえ、正常な喪失反応であることが多いです。長年担ってきた役割が変化するとき、人は誰でも喪失感を覚えます。これは心が健康に機能している証拠ともいえます。

Q: いつまでこの気持ちが続くのでしょうか?

 A: 個人差がありますが、多くの人は数カ月から半年ほどで新しい生活リズムに適応していきます。ただし、焦る必要はありません。自分のペースで進めていくことが大切です。

Q: 子どもに連絡したい衝動を抑えられません

 A: 最初は自然な感情です。ただし、子どもの自立を尊重しながら、連絡の頻度やタイミングを徐々に調整していくことをおすすめします。「週1回の電話」など、お互いに心地よいルールを作るとよいでしょう。

小さな再出発の事例

実際に、この転機を前向きに捉えて再出発した人の例をご紹介します。

▽事例1:趣味を仕事に変えた山田さん(54歳)

 山田さん(仮名)は、子育て中に独学で学んだパン作りを、子どもの巣立ちを機に本格化させました。地域の公民館で月1回のパン教室を開くようになり、今では生徒さんとのおしゃべりが楽しみだといいます。「子育て中は『いつかやりたい』と思っていたことを、今こそ実現できる」と笑顔で語ります。

▽事例2:ボランティアで新しいつながりを得た佐藤さん(56歳) 

佐藤さん(仮名)は、週2回、地域の子ども食堂でボランティアを始めました。「自分の子どもには手がかからなくなったけれど、地域には支援を必要とする子どもがいる」と気づいたことがきっかけです。そこで出会ったボランティア仲間とは、活動後にお茶をする関係になり、新しい友人ができたそうです。

今日からできる3つのアクション

「何から始めればいいかわからない」という人のために、具体的なアクションプランをご提案します。

▽1. 週1回の外出習慣を作る

まずは小さく始めましょう。毎週決まった曜日に、図書館やカフェ、公園など、家の外に出る習慣を作ります。目的がなくても構いません。外に出ることで、自然と新しい刺激が得られます。

▽2. 地域のサークルやSNSで興味のある活動を探す

市区町村の広報誌や公民館の掲示板には、様々なサークル情報が載っています。また、FacebookやInstagramで「〇〇市 サークル」「趣味 教室」などと検索すると、地域の活動が見つかります。まずは見学から始めてみましょう。

具体的には、以下のような選択肢があります。

・短期講座(3カ月程度の教室は始めやすい)
・趣味のサークル(手芸、読書、ウォーキングなど)
・オンラインコミュニティ(時間や場所の制約が少ない)

▽3. 家族との新しいルールを作る

夫婦二人の生活、子どもとの適切な距離感など、新しい家族のあり方を話し合いましょう。例えば、

・夫婦で月1回の外食日を設ける
・子どもとの連絡は週末のみ
・自分だけの時間を週に数時間確保する

こうしたルールを明文化することで、お互いの役割に対する過度な期待が調整され、ストレスが減ります。

空の巣から始まる再出発

空の巣になった家は、確かに静かです。最初はその静けさに戸惑うかもしれませんが、少しずつ自分だけの時間を楽しむ余白として受け止められるようになります。長年、子育てに費やしてきた日々の経験は、あなたの人生の大きな宝物です。その経験があるからこそ、これからの生活や新しい出会いに、落ち着いた視点と温かさを持って向き合うことができます。

まずは小さな一歩から始めてみましょう。静かになった家の中で、自分自身の時間を大切にしながら、新しい日々の再出発を迎えることができます。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

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