「祖母宅を掃除している母からなんか凄いの出てきた!と連絡が。
見事な鼈甲のかんざし一式。
全くの門外漢なんだけど、見る方が見ればわかるんだろうか」
そんな文言とともに投稿された美しいあめ色の花嫁かんざし一式の写真が「X」で大きく注目を集めました。記事執筆時点で投稿には「8.8万件」もの「いいね」がついています。
写真を投稿したのは「くるみゆべし」(@NociYubeshi)さん。話題になった投稿に続けて
「本鼈甲なのか鼈甲調の何かなのかもわからない。曽祖母が結婚するときに使っていたんだとか。」
とポストしています。
リプライ欄には「本物のべっこうであるかどうかの見分け方」、「専門家に鑑定してもらう」そして「額装して飾る」といったさまざまな提案の声が届いており、その中の一つにくるみゆべしさんは、
「値段には期待はせず、70年ぶりに天井裏から出てきたご縁を大切にしようと思います!」と答えています。
また、かんざしそのものの細工の精妙さを称える声や、ひ孫であるくるみゆべしさんの思いに共感する声も届いています。
「素敵な花嫁簪ですね。最近は洋髪のお嫁さんが主流で、この様な物を拝見する機会も少なくなりました。何とも上品な美しさです。」
「細い鶴の足も梅の枝先も欠損なく残っていますね。繊細な細工がとても美しく材質がどうあれ職人さんの力量が素晴らしいです。曽祖母さまの晴れの日の思い出。どうか先々までご家族の宝としてお大切に…」
「曾祖母さまにとって、人生の佳き日を飾った大事なものだったのですね。お金に換えられない価値があると思います。大切になさるとのこと、とても素敵です。」
くるみゆべしさんにくわしい話をお聞きしました。
頭の回転が早く、手先が器用な女性だった
――曽祖母様の「花嫁かんざし」の写真をご覧になった時は?
初めて写真で見たとき、「本当に出てきたんだ…!」と驚きました。「X」で教えていただいたのですが、これは文金高島田を飾る花嫁かんざしのセットで、かんざしのほか前櫛や笄も揃っているようです。曽祖母が大切にしまっていたことを思うと、長い時間を経て私たちの手元に戻ってきたこと自体が、何よりのご縁だと感じています。
――どんなお人柄の女性だったのでしょうか。
曽祖母は1900年(明治33年)生まれで、18歳前後に嫁いだと聞いていますので、1918~1919年頃(大正期)に用いたものではないかと思います。家族の話では、頭の回転が早く手先が器用で、7人の子供に恵まれ、とても面倒見がよい人だったと聞いています。
――リプライ欄であげておられた「曽祖母お手製のセーター」も拝見しました。
編み物に詳しくないのですが、手編みのセーターも細い毛糸で編み上げられており、ボタンまで毛糸で作るというかなり難易度の高い技術で作られているようです。
「この家の誰も探せないところにしまっておくから…」
――ご家族に残る、思い出のエピソードなどはありますか。
エピソードとして、母が子どもの頃、一度だけ曽祖母がかんざしの箱を見せ、「この家の誰も探せないところにしまっておくから、あなたが大切にしてね」と言い含めたそうです。翌日、押し入れの前には座卓や机、椅子が積まれていて、「高いところに頑張って隠したのだろう」と母は想像したとのこと。恐らく祖母の断捨離を恐れて隠したのでしょう。長い年月を経て今回、本当に天井裏から見つかったとき、母は「また祖母に会えたみたい」と喜んでいました。
人知れずしまわれていたかんざしに大反響
――たくさんの人がかんざしの美しさに魅了されました。
人生初の大きな反響でしたが、何よりも長い間日の目を見なかったかんざしに、たくさんの方が「素敵!」と反応してくださって嬉しかったです。こんなに見ていただけるなら、もっと母に写真を綺麗に撮ってもらえばよかった…(笑)。
――特に印象に残ったコメントは。
印象に残ったのは、皆さんが知見を寄せてくださったことです。花嫁かんざしの用途や各パーツの呼び名、材料の判別方法、保存のコツなどなど。とても勉強になりました。また、「うちにも似たものがあった」「家の整理で出てきた古い品を見直そうと思った」といったコメントもいただきました。
断捨離の流れに逆らって
さらにくるみゆべしさんは、「このかんざしも解体する家の整理に伴って出てきたもので、見つからなければショベルカーで壊されるところでした。暮らしの何もかもを断捨離する流れがある世の中ですが、古いものに目を向け、作られた当時に思いを馳せるきっかけになれば良いなと思っています」と、今回の投稿が遠い時代や人とのつながりをふりかえる気づきになることを願っている、と話しました。
「今後は家族で大切に保管」
かんざしの今後についてもお聞きすると、くるみゆべしさんは「素材(鼈甲か否か)については、現時点では私たちでは断定できません。高価な鼈甲であれば驚きですが、仮にセルロイド等であっても、長い時を経て無事に再会できたという喜びは変わりません」といい、さらに「鑑定については、保管環境を整えた上で、状態を損なわない方法で専門家に一度相談する方向で検討しています。ただし、値段のためというよりは、素材や年代・適切な保存方法を知るための鑑定です。今後は家族で大切に保管しつつ、長期保存に向いた環境に移していくつもりです」と話しています。