就職して半年余り。運動不足が気になり始めたそんな時、空気の入った軟らかい剣で競うスポーツチャンバラ(スポチャン)に取材で出合った。チャンバラごっこと護身道を基に考案されたとされるニュースポーツだ。パシッと一本決まればスカッとできるかも。武道未経験の記者(23)が道場の門をたたいた。
「面を打て」の合図で「面」と大きな声を出しながら一歩踏み出し、剣を振り下ろす。静寂に包まれた道場に「ドン」と足音が響く。その後も「小手」「胴」「足」「突き」と切れのある動きが続く。鋭く剣を振るってはピタッと止まる。動と静を繰り返す演武に圧倒された。
訪ねたのは9月に横浜市で開かれた全日本選手権の優勝チームが所属する「TSKスポチャンクラブ」。練習拠点の岡山市中区江並にある真宗寺の道場で指導者の藤谷恭信代表(49)が「スポチャンは安全で手軽に楽しめるスポーツ。思いきり剣を振って楽しんで」と出迎えてくれた。
スポチャンには所作の美しさや正確さを競う「基本動作」と、相手と打ち合う「打突」の2部門があることを教わった。
記者は6種類の剣の中から、最も扱いやすいと薦められた長さ60センチの小太刀を選び挑戦した。初めて持つ剣だったが、意外にも軽くて手になじむ。「面」と思いきり剣を振り下ろす。ピタリと止めようとするが止まらない。見たのと違う。簡単そうに見えたが難しい。
女子高校生を相手に打突にも挑んだ。小太刀を手に対峙(たいじ)するも、軽やかなフットワークで間合いを詰められ、思わず後ずさりする。相手が振りかぶった剣が「胴に来る」と思った瞬間、足に決められた。「パーン」と大きな音。軟らかい剣のおかげで痛みはなかった。
それから何本打ち込んだことか。全て華麗にかわされ、一本取るどころか、剣が相手の体をかすることもなかった。それでも、剣を夢中で振り回しただけだったが試合っぽくなり、うれしかった。
岡山県内には五つのクラブチームがあり、子どもから60代までの幅広い世代が熱中しているという。記者の対戦相手になってくれた城東高1年常井心美さん(15)は今年の全国チャンピオンチームの一員。「練習すればするほど上達し、試合では相手との駆け引きの中で自分の成長を実感できて楽しい」と教えてくれた。
30分ほどの体験でも息が上がり、心地よい汗をかいた。一本も当てることができなくとも運動不足解消とストレス発散になり、すがすがしい気持ちで道場を後にした。