人をかむ柴犬が保護施設に入所、10カ月で見せた変化に感激「表情がぜんぜん違うのに泣ける」

渡辺 晴子 渡辺 晴子

「ぽんた入所10ヶ月
まだまだ道は遠い

でもそんなことはどうでもいい
理屈も能書きもいらない

ただ目の前の犬たちと心で会話がしたい
それが私の幸せです」

8月中旬で入所10カ月を迎えた柴犬のぽんたくん(2歳・雄)の動画を、譲渡困難犬のための保護施設「一般社団法人わんずふりー」さん(@wansfree)がInstagramで投稿、話題になりました。投稿には「わんちゃんに対する愛情にはもう感動しかありません」「心の傷を少しずつ解いてくださり尊敬しかないです」「同じ歯、でも表情がぜんぜん違うのに泣ける」などと感激のコメントがたくさん寄せられています。

本気がみが激しく、元飼い主が何度も病院送りに…なぜ?

わんずふりーの代表・齊藤洋孝さんによると、ぽんたくんは本気がみが激しく、元飼い主が何度も病院送りになったとのこと。触ることはおろか世話も困難とのことで行政に持ち込まれたワンちゃんだったといいます。

「ぽんたはひどく神経質で臆病、しかし強気な一面をもつ子でした。他犬の強い子には弱く、弱い子には強いタイプです。とにかく自分の行動を制限されることが嫌いで、その関係からか、触られることにかなりの恐怖と怒りを持ち合わせていました。人間はかみつけば何もしない、かみつくことで自分自身を守れると学習していたようでした」(齊藤さん)

そんな自分を守るために人間にかみついていたというぽんたくん。こうしたかみつき、うなりなどが激しい咬傷犬(こうしょうけん)を受け入れているわんずふりーさんのところにやってきました。

「私は訓練といえるようなこと、また体罰での矯正などは一切やりません。あくまで基本的な『スワレ、マテ、ヨシ!』をご飯時に毎日やるだけです。他は毎日犬の目線にしゃがんで話しかける、体をすり寄せてきた時だけ少し触るを日々繰り返します。自分だけの感覚ではなく、誰が見ても納得できる悪いことに対して短くしっかり叱ること、昨日より今日、ほんの少しでも前進したら思い切り褒める、子育て同様、当たり前のことを当たり前に日々やり続けることが訓練だと考えています。このほか、24時間自由行動のもと、太陽や木々草花、大地の力を借りて、傷んだ犬の心と身体を内側からリセットしてもらっています」(齊藤さん)

わんずふりーさんに入所して10カ月を経過したぽんたくん。普段はフェンス越しではひどく威嚇するものの、フェンスを開けた瞬間遠くを見て何もなかったかのように振る舞う「臆病なのに強気」なタイプのワンちゃんだとか。とはいえ、齊藤さんたちと一緒に過ごしているうちに少しずつ変化が表れ、今は常に触ることができ、また自ら「なでてほしい」と来るようになったそうです。

「まだ先は長いですが、ほんの少しの前進が彼にとっての最大の頑張りなんだと思います。彼には『無理しなくていい、ぽんたのペースで楽しくやろう』といつも言っています」と、ぽんたくんの心の変化に喜ぶ齊藤さん。そして、今後は「かみつきがなくなっても、そこから誰にでもかみつきがなくなるよう、譲渡会などに参加して人慣れしていきます。安心できるようになれば家族募集する予定です。ただあくまでも犬の意思を尊重した上で決めます」と話してくれました。

     ◇  ◇

行き場のないかみつき犬の保護施設 代表「一番大切なものは『動物に注いだ愛』ではなく『動物に伝わった愛』」

齊藤さんは2014年から個人で犬の保護活動からスタートし、咬傷犬の行き場がないことを活動の中で実感して譲渡困難犬のための保護施設として「わんずふりー」を開設したとのこと。現在は全国の行政、保護団体より扱いの難しい咬傷犬を主に引き受け、24時間自由な自然環境で共同生活をしながら犬社会を学び、心と身体をリセットし、犬が負った「さまざまな傷」を癒し、看取りまたは譲渡に結びつける活動をしています。咬傷犬を受け入れる活動を通じて、齊藤さんはこう訴えます。

「9月8日現在受け入れいている犬は39頭です。動物愛護先進国でも咬傷犬は殺処分されている現実をほとんどの人は知りません。私は動物愛護後進国の日本から国内はもとより、世界へ向け行動でメッセージを発信し、どんな命に対しても人間は責任をとらなければならないことを訴え続けていきたいと思います。そして、咬傷犬にありがちな体罰での矯正は不要であることを実績を踏まえ証明し続けたいと考えています。一番大切なもの、それは『動物に注いだ愛』ではなく、『動物に伝わった愛』なんです」

「一般社団法人わんずふりー」のホームページ

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