「意地悪」のレベルを超えたベンチが東京・新宿区にある
「この写真は新宿区なんだけど、もはや「意地悪」の限度を超えている。以前はこんなふうにソフトコーンがベンチに固定されていなかった。後方の「夜間は会話を控えてください」の立て看板から推測すると、近隣住民からクレームが入った結果だろう。『くつろぐな』『しゃべるな』『休むときはひとりだ』」
2024年7月14日、フリー編集者・浅原裕久 @asahara1966 さんが、X(旧Twitter)にこんな投稿をした。
とりあげた写真は、俗に「意地悪ベンチ」と呼ばれるものである。ベンチをあえて肘かけで区切って(あるいはわざわざ肘かけを後づけして)野宿人が横になることができないように「工夫」されていることがこの不名誉な通り名のゆえんだ。その目的とするところから「排除アート」と皮肉られることも多々ある。
ここ10年くらいのあいだに意地悪ベンチは急速に「普及」し、よくもわるくも目になじんだ。そのなじんだ目にすら異様に映るのは、この意地悪ベンチには肘かけのみならずソフトコーンまで座面に据えつけて、座ることすら拒否するように細工されている点である。だからこそ浅原さんも「もはや『意地悪』の限度を超えている」と評しているのだ。
本稿執筆時点で当該ポストは250万に近いインプレッションを獲得しており、「いいね」は1万件超、リポストは6000件近くに達している。ネットの反応はおおむね批判的といってよく、利用者のマナーの悪さゆえにこうせざるを得なくなったのではないかと指摘する人は多くはない。それはやはりこの意地悪ベンチの、大きすぎるほどに大きい視覚的インパクトのゆえだと思う。
ポストのツリーには、この意地悪ベンチの所在も記されている。実際におもむいて状況を確かめてみることにした。
新宿区は、ここでは「絶対に」会話をさせたくない
くだんの意地悪ベンチは、西武新宿線と山手通りが立体交差する陸橋の真下にある。
ソフトコーンは、4本の結束バンドによって座面に据えつけられている。簡素だが、それなりに頑丈な工作にはなっていた。ただ、1座につきソフトコーン1本だけという余白の大きいしつらえのせいで、多少浅めに腰かけることになるのさえ厭わなければ、座ること自体は容易である。取材中、そうやって休んでいく人はひっきりなしに続いた。
その場でソフトコーンの値段を検索してみた。このベンチに据えつけてあるくらいのサイズなら、安いものならば1000円強で買えるようだった。それが2脚のベンチに2本ずつ、計4本。5000円程度といったところだろうか。前出の浅原さんをして「もはや『意地悪』の限度を超えている」と評せしめた「意地悪」は、わりあい安価にできているのだった。
意地悪ベンチの周囲はピロティとして整備されていて、防災用具を保管するプレハブの小屋がひとつ建っている。足を踏み入れてだれもがすぐに気づくだろうことは「べからず」の多さだ。煙草は吸うな。野宿はするな。球技はするな。壁打ちもするな。スケートボードはするな。夜間は会話するな…。こういうことはよほど気をつけていわなくてはならないものだろうが、いっそ狂気を感じさせるほどの量の禁止看板がある。
特に「会話禁止」は、目立って多い。「ご遠慮ください」という比較的穏当な文字面のものも含めて、私が数えた限りでは周辺に10枚あった。とにかく新宿区は、利用者にはここでは絶対に会話をさせたくないのだ。
その意図は、他ならぬ意地悪ベンチからも読み取ることができる。