「忙しい日々の味方」「常備しておくべき」「ジャンクフードへの免罪符」「ネーミングに惹かれる」…と、SNSではポジティブな意見が頻出する「日清食品」(本社:東京都新宿区)の「完全メシ」。2022年5月~2024年6月で累計出荷数2800万食(同社調べ)を超えるヒット商品となっている。
価格は通常の「カレーメシ」が289円、「完全メシ カレーメシ」は429円(ともに希望小売価格)と、比較すると値段は高くても人々が手に取る理由とは? ロングセラーブランドを次々と「完全メシ化」している日清食品の担当者に取材した。
はたして「完全メシ」とは?
インスタントやレトルトの「手軽でおいしいけれども、栄養やカロリー、塩分がちょっと気になる… 」といったイメージを変えつつあるのが「完全メシ」。「日本人の食事摂取量基準」で設定されたビタミン・ミネラルなど33種類の栄養素と、「おいしさの完全なバランス」が追求された商品だ。
その誕生のきっかけは、創業当時にまで遡る。創業者・安藤百福が、満足に食べ物を得られなかった戦後の時代に、誰もが気軽に手に入れることのできる食を開発したいという思いが原点だった。
「それから半世紀以上を経た現在は、飽食による「肥満」が世界的な課題になっている一方で、粗食・小食を原因とした低栄養によって引き起こされるシニアの「フレイル」や、偏った食生活を原因として、カロリーは足りているけれど、身体に必要な特定の栄養素が不足する「隠れ栄養失調」の増加も深刻な問題となっています」と担当者の稲田達彦さん。
かつては飢餓や空腹を解決しようとインスタントラーメンを世に送り出した同社が、肥満や隠れ栄養失調といった”現代ならではの食の課題”に対して開発したのが「完全メシ」なのだ。
どんな層に人気なのか?
同社の人気ブランド「カレーメシ」や「日清焼そばU.F.O.」のカップ麺やカップライス、冷凍食品といった食事系だけでなく、「スムージー」のようなドリンクも展開。また、「湖池屋」のカラムーチョ、「木村屋総本店」のあんぱん、「大阪マリオット都ホテル」のレストラン、人気宅配カレー専門店「オーベルジーヌ」とのコラボも実現。さらには、外食や社員食堂向けのメニュー開発、医療機関との連携サービスなど多岐にわたって事業が展開される「完全メシ」は、日清食品の新たな柱となりつつある。
「「カップ麺」や「カップライス」は、栄養バランスが気になり始めた30代半ばから40代の男性がメインユーザーです。「カップスープ」「スムージー」は、幅広い年代の女性の方から支持をいただいています。冷凍食品については、30代の男性がメインユーザーです。普段の食事の代わりとして、昼食や夕食にご利用いただくケースが多くなっています」と商品によって購買層は異なるものの、男女ともに好評のようだ。
また、丼もの、オムライス、ビビンバ、パスタなどバラエティ豊かな28品(7月25日時点)がそろう冷凍食品の「冷凍 完全メシ DELI」シリーズは、2023年12月にパッケージが一新されたことから、女性人気も高まりつつあるという。オンライン販売では、2024年3月末時点でリピート率が55%もあり、認知度とともに需要がまだまだ増えそうだ。
今回の成功へたどり着く前に…
同社は過去にも、栄養に特化した商品として「All-in PASTA」をはじめとする「All-in」シリーズを展開していたことがある(2019年3月発売、2020年終売)。「日本人の食事摂取基準」をもとに1日に必要なビタミン、ミネラルの1/3量を配合した商品だったが、三大栄養素 (たんぱく質、脂質、炭水化物)のバランスは考慮されていないなど、コンセプトや設計が大きく異なる商品だったという。
「必要な栄養素量、エネルギー量は、性別や年代、活動量によって異なります。カルシウムのように男性の方が必要量の多い栄養素もあれば、鉄のように女性の方が必要量の多い栄養素もあります。また、ビタミンA、D、Eのように摂りすぎると良くない栄養素もあります。そうした条件を全て加味して、1kcalあたりの栄養素のバランスを整え、18歳から64歳の男女が1650kcal摂取すれば、必要な栄養素量を満たすように設計したのが「完全メシ」です」(稲田さん)
また、稲田さんによると、「普段の食事と変わらないおいしさを実現」するのが、簡単なようで非常に難しいとのこと。栄養素の中には独特な苦みやエグみを持つものがあるため、そのまま栄養素を配合しただけではおいしさに影響が出てしまうそうだ。実際、「All-in PASTA」を食した際、その特徴的な味わいに「食べる人を選びそう」と感じた。
そこで、同社がこれまでインスタントラーメンなどの開発で培ってきた最新のフードテクノロジーを駆使することで、栄養素の苦みやエグみをおさえ、「普段の食事と変わらないおいしさ」を目指して、「完全メシ」で実現。
さらに同商品のために、独自の「減塩技術」を開発。塩分が薄いとものたりなく感じるが、濃くすると摂取しすぎになるため、世界中から約170種類もの塩を集めて研究を重ね、ミネラルやアミノ酸などを配合することにより、塩が少なくてもおいしく感じられるようにしたという。ほかにも、どのような各栄養素を足しているのかは気になるが、詳細については企業秘密とのことだ。
高級志向の人にも…今後可能性が広がる!?
そんな「完全メシ」は、インスタント食品の枠を超えた動きもあり、そのひとつが「大阪マリオット都ホテル」とのコラボによる「完全メシ」だ(2024年8月31日まで提供)。
同ホテルのラウンジで、人気が高いメニューであるカレーとサンドウィッチを選定し、構想段階から1年以上をかけて、日清食品とホテルのシェフが一緒に開発。「完全メシ 10種類の野菜と大阪ウメビーフカレー」(4500円)は、梅酒を漬けたあとの梅を混ぜた飼料で育てた大阪のブランド牛「大阪ウメビーフ」が食欲をそそる。京都の老舗米屋「八代目儀兵衛」がカレールゥの味わいに合わせて最適なバランスでブレンドしたお米を使用。
「完全メシ 10種類のフルーツとヨーグルトクリームサンドウィッチ」(3000円)には、イチゴ、メロン、パイナップルなど10種類もの果実を使用している。
「想定していたターゲットは、カレーですと栄養バランスが気になり始めた30~40代の男性、サンドウィッチはホテルでのアフタヌーンティーなどのご利用が多い20~40代の女性でした。カレーについては、40代・50代以上がそれぞれ約3割、加えて女性の比率が高いことも驚いております。サンドウィッチは20代・30代・40代、50代以上の世代を見比べるとほぼ同じ割合となっております」と「大阪マリオット都ホテル」の広報担当者。幅広い世代にとって気になる商品となっているようだ。
今後、「完全メシ」が目指すところは?
2024年度に70億円、2025年度に100億円の売上達成を目指す「完全メシ」。今後の展望として、「一部のヘルシーコンシャス層に向けた展開ではなく、全ての人に手軽でバランスの良い食事を提供し、「Well-being」の向上に貢献したいと考えています。そのために、宣伝広告を通じて生活者の理解をもっと深めていくほか、商品ラインアップの拡充やタッチポイントの拡大も積極的に進めていく予定です」と語ってくれた稲田さん。
消費者側として気になるのは、「カップヌードル」や「日清のどん兵衛」といったロングセラー商品の「完全メシ化」だが、こちらは課題となっているそうだ。
「お客さまが“いつもの味”をはっきりと覚えておられる商品は、“いつもの味”と少し違うだけでも、『これは〇〇ではない』と思われてしまいます。そのため、長年ご愛顧いただいているファンが多い商品ほど「完全メシ」化する苦労は多くなります。また、麺とスープで構成される商品の場合、スープを飲み切る方とそうでない方がいらっしゃるので、栄養バランスの設計も難しいポイントです」と稲田さん。日清食品のさらなる技術革新によっての商品化を期待したい。
【日清食品「完全メシ」ブランドサイト】
https://www.nissinkanzenmeshi.com/
【「大阪マリオット都ホテル」での「完全メシ」の提供について】
住所:大阪市阿倍野区阿倍野筋1−1−43 19F LOUNGE PLUS
提供時間:11:00~20:00(LO19:30)
https://www.miyakohotels.ne.jp/osaka-m-miyako/topic/event/2401/