生活音や車の音に怯え…「幸せにしてあげたい」役目を終えた“17歳の繁殖犬”が心を開くまで

渡辺 陽 渡辺 陽

繁殖引退犬の譲渡会で出会う

オル(オルフェーヴル)くん(17歳・オス)は8歳の時、茨城県在住のせいこむさんの家族になった。せいこむさんは、都内から地元へ戻り、犬を飼いやすい環境になったので犬を探したという。

「柴犬を飼いたいと考えていたときに、県内のペット施設で繁殖引退犬の里親募集をしていることを知り、見学に行きました。施設では初め別の柴犬を紹介されたのですが、1回目の訪問だったこともあり、その日はいったん出直そうとしたのです。その時、奥からくるくる回りながら勢いよくオルが走ってきました。その姿に心を掴まれ、即引き取りを決意しました。人に媚びない感じも『ちょっとこいつ、ただものじゃないな!』って魅かれました」

オルくんは、収用されていた施設が人里離れた場所にあったせいか、せいこむさん宅に来ると、生活音や夜に道路から聞こえる車の音などに驚いて震えていた。せいこむさんは、そんなオルくんを見て一緒に布団で寝たという。

一緒にいられることは当たり前ではない

夫が競馬好きなこともあり、名前は名馬・オルフェーブルから取った。

柴犬で17歳というと、おじいちゃん。来年1月には18歳になる。

「まるで人間のような生活をしていますが、そもそもは人間社会にはまったく慣れていない子でした。初めは炭酸のふたをあける音にすら驚いていたので、音をたてないようにそっと開けるようになりました。夫が中華鍋を振る際の油の音に驚いて、ベランダまで走り出たこともあります。抱っこしてなだめましたが、慌てる様子が漫画のようで、オルにとっては大変だったろうけど笑ってしまいました」

昔は寝言以外で声をだすことなどなかったが、今は痴ほうがあるので、気に入らないと吠えたり、目が覚めたよー、抱っこしてー、なども吠えて伝えてくる。

「たった1度、どこかから脱走してきた犬が吠えかかってきた時に、飼い主の前に立ちはだかって、うなって追い返したことがあります。その後の勝利の遠吠え(後にも先にもこの1度きり)にはほれぼれしました!」

最近ではお風呂に入れた時、そのまま眠ってしまったオルくん。「体を拭いても全然起きなくて、インスタでもぬいぐるみみたいと言われてました。そのままベランダのひなたでお昼寝しました」

守ってあげたい、愛したい、もっと幸せにしてあげたい、オルくんに対してはそういう想いを強く持つようになったというせいこむさん。「犬はひたすら純粋に傍にいてくれますから」と言う。

生活スタイルも愛犬優先。あんなに苦手だった早起きが苦にならず、雨でも雪でも一緒に散歩に出かけた。オルくんがまだ歩いていた頃は、毎日朝晩、1時間以上も散歩をしていた。季節の移り変わりや、ちょっとした自然の美しさに感動するようになった。

「一緒にこの景色を見ていることに幸せを感じました。介護生活になってからは、食事を必ず手で与えなければならない、夜間もお世話をしなければならないので、自分が倒れないように健康にも気を付けるようになりました。今、一緒に居てくれることは当たり前のことじゃないんだと、毎日を大切に思うようになっています」

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